断腸亭料理日記2008
12月13日(土)第一食
金曜夜、冷凍庫に入っていた、開封済みのかんぴょうを、
見付けて、なぜか、料理を始めた。
酔っ払っていた、というのが、よく覚えていない理由ではある。
随分前から、冷凍庫に入ってるので、煮てしまおう
と、思ったのだと思う。
(おそらく)水にしばらく浸けて、鍋を火にかけ、
味付けは、甘め、しょうゆは少なめ、そんなところを目指した。
酔っ払っているので、かんぴょうを煮て、
どうやって食べよう、というのを、具体的に考えていたわけではない。
その辺が、酔っ払いの不思議なところである。
かんぴょうは、漢字で書くと、干瓢で、
瓢は、瓢箪(ひょうたん)の瓢、で、ある。
正しくは干瓢は、瓢箪の干したものではない。
実際に見たことがあるが、同じ瓜科のユウガオの実を、
薄く、細く切って、むいて、といった方がよいか、干したもの。
関東では、栃木県小山市などが本場、と、いわれている。
最近でも、生産量は栃木県が日本一のようだが、
子供の頃、夏、小山あたりを車で通りかかり、
いたることろで、白い長く切ったものを干しているのを
見た記憶がある。
かんぴょう、といえば、寿司のかんぴょう巻き。
鮨やの符丁では、木津巻き、などともいう。
木津は、摂津木津で、今の大阪市浪速区。
(浪速区にも木津川という駅があるが、このあたりのことか。)
山城国(京都府)で採れたかんぴょうが、木津川で摂津の木津に
運ばれ、関西では、かんぴょうの別名にもなったという。
それで、かんぴょう巻きを、木津巻きというらしい。
(ウィキペディアにおもしろいことが載ってた。
安藤広重の東海道五十三次の水口宿(滋賀県甲賀市)に
かんぴょうを干している風景があるという。
当時、産地として知られていたのであろう。
近江水口藩二万石、殿様は、鳥居家。
時の殿様は名君といわれた忠英という人。
この鳥居家が、近江水口から、下野壬生三万石
(現小山市の隣)に国替えになり、水口の名物を下野の壬生でも
考え、かんぴょう作りを下野でも奨励したという。
それで、その後、現代まで、栃木県のあのあたりは
かんぴょうの産地である、ということである。
ちなみに、この鳥居家は徳川譜代の鳥居の本家。
かんぴょう、とはなんの関係もないが、水野忠邦の天保の改革の頃、
水野の腹心として暗躍し、妖怪などともいわれる、例の鳥居耀蔵は、
この本家ではなく、傍流の旗本家だという。耀蔵の生まれは、
鳥居家ではなく、学者の家柄の林家で鳥居家へ
養子に入っているらしい。)
かんぴょうといえば、かんぴょう巻き。
それも、わさびを効かせた、鉄砲などというが、のは、
うまい、ものである。
海苔巻きではなく、煮たかんぴょうにわさびをつけて
食べてもうまい、のか?
なんということを、考えながら、甘辛く、煮る。
最初はガスで煮ていたが、金曜の夜は
火鉢に火を入れていたので、仕上げは、火鉢で
煮ふくめた。
この日は、わさびでつまみとして、食べることもなく、
そのまま寝てしまった。
起きたのは、普通の時間。
七時半〜八時頃。
NHKのニュースを視ていると、玉子焼きで有名な、
王子の扇屋をやっていた。
扇屋は、1799年、寛政11年創業。
王子稲荷門前の料理やであった。
(今は、料理やはやっておらず、玉子焼きの
販売のみ。)
落語ファンの方はご存知であろうか。
王子の狐、という噺がある。
落語の中に、宣伝、という意味もあったのだろう、
実際の店の名前を登場させる、ということが
沢山はないが、あるにはあった。
(百川(ももかわ)、なんというのもそうである。
百川は、日本橋浮世小路(今の室町)にあった
八百善と並び称される、江戸屈指の料理や)
この王子の狐に、名物の玉子焼きとともに
扇屋そのものも噺の舞台として登場している。
確か、扇屋の玉子焼きは、日本橋の三越などにも
売っていたと思われる。
今、日本橋三越にはなくなり、最近は食べていないが、
これが甘くておいしい、のである。
いわゆる、厚焼き玉子、で、ある。
ただ甘い、というだけではなく“なにか”がある、
と思われるのだが、それを明確に説明できないが、
とにかくそうとうにうまい玉子焼き、で、ある。
花見などに、よく持っていったものである。
(王子の店では今も売っているらしい。)
この扇屋のことをTVで視ていて、はたと思い付いた。
冷飯が冷蔵庫にある。
これをレンジで温めて、昨日の甘辛く煮た、かんぴょうに、
玉子焼きを焼いて、飯に混ぜ込んで、ちらし寿司、の、ようなものを
作ってみようか、と。
煮たかんぴょうは、つゆから上げて、皿にのせておく。
絞ってしまっては、いけなかろう、皿の上で、つゆをさらに
少し切って、混ぜ込み用に1〜2cmに切っておく。
玉子。
玉子は、混ぜ込みだと、厚焼きではなく、薄焼。
錦糸玉子であろう。
玉子一個を割りほぐし、酒少々と、ちょっと甘めを
意識して、砂糖を入れる。
フライパンに油を敷いて、弱火。
ざっと流し入れ、丸く広げる。
ひっくり返さずとも、
裏側に軽く焦げ目が付けばよいだろう。
俎板に移し、長さ2cmほど、幅5mmほどの
細い短冊に切る。
これだけでもよいが、先日の菜飯に使った
蕪の葉っぱの塩漬けがまだ残っている。
これも入れよう。彩りもよいだろう。
冷飯をレンジで温める。
!。
レンジ加熱をした冷飯であるが、酢も入れてみようか。
普通、炊きたての飯でなければ、酢飯を作るのは、
むずかしい。
(ただでさえ、私は酢飯作りは、苦手、で、ある。)
ちょっとだけ入れてみようか。
お椀に、気持ち、砂糖を入れて、レンジ加熱をした
ほかほかした状態の飯に酢をかけ、かんぴょうと、
錦糸玉子、蕪の葉っぱの塩漬けも混ぜ込む。
味見をすると、ちょっと、薄めの味だが、
一応、ちらし寿司、らしいものが、できた。
(酢の量が多いと、レンジで温めた飯では、ベチョベチョに
なってしまうと思い、酢の量をセーブをしたのである。)
飯茶碗に盛って、もみ海苔もまぶす。
どうであろうか。
できるものである、蕪の葉っぱの緑と、
錦糸玉子の黄色と、かんぴょうのしょうゆ色。
それなり、で、ある。
味も、まあまあ。
そこそこ、満足、で、ある。
(あとで内儀さんが食べて、味が薄い、
などと、生意気なことをいい、飯との量のバランスが悪いので
私は残しておいたかんぴょうも内儀さんは全部入れて、
食べてしまった。)
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