断腸亭料理日記2008
4月4日(金)夜
一週間の終わり。
年度代わりで、落ち着かぬ一週間であった。
今日は早く帰ろう。
6時40分頃、オフィスを出る。
早く帰れる日。
こんな日は、池の端藪へ、いってみようか。
今の私には、最も、よい、蕎麦や、である。
ここは、8時閉店なので、夜は、早く帰れる日、でなければ
なかなか行くことはできない。
大江戸線、上野御徒町で降りて、
トントンとエスカレーターを歩いて上がる。
やはり、ここに向かう時には、こころもち、足が軽くなる。
いつもの池之端(正確には上野二丁目)の愛すべき路地を抜け、
池之端仲通りに出て、藪蕎麦にたどり着く。
入ると、けっこうにぎわっている。
座敷も、テーブルも、ほぼ埋まっている。
一番手前のテーブルが空いており、そこに座る。
さて、今日はどうしようか。
ビール、で、あろうか。
エビスを頼み、つまみは、、、。
天ぬきはどうだろうか。
ここで天ぬきは頼んだことはなかった。
ビールがきた。
味噌をなめながら、ビールを呑んでいると、
きたきた。
天ぬき。
ふたもの、で、ある。
毎度のことであるが、ここの器は、気が利いている。
乙なものを使っているではないか。
まったく私にはわからないが、いずれ、いわれのある物、
なのであろう。
わからないながら、そんな匂いがする。
わくわくしながら、
それこそ、舌なめずりせんばかりの、気持ちで
ふたを取ってみると、、。
驚いた。
つゆが、透明、で、ある。
浅草の並木藪は、しょうゆ、で、ある。
別段、天ぬきマニアではないので、
断定的なことはいえないが、蕎麦やの天ぬきは、
しょうゆのつゆ、の、方が、多いのではなかろうか。
見た目では、
ここの天ぷらそばの、と同様のかき揚げが、
透明なつゆに入り、その下に、蒲鉾、で、あろうか、
白いものがあり、上に、三つ葉が散らしてある。
食べてみる。
まったく見た目通り。
下に沈んでいるのは蒲鉾を飾り切りしたもの。
かき揚げは、天ぷらそば同様、芝海老。
つゆは、すまし、だが、むろん味はしっかりしている。
うまい、うまい。
蓮華ですくいながら、食い、かつ、つゆを呑む。
ビールも呑み終わり、さて、そばはなににしようか。
温かい、つまみにしたので、
そばは、冷たいものがよかろう。
ただのせいろでは、さびしい。
季節的には、鴨せいろ、でもない。
冷たい、山かけ、にしようか。
山かけ、といういい方をすると、温かく、
上にかけるイメージだが、ここのメニュー名が
山かけ、なのである。
頼むと、冷たいのですか、温かいのですか、
と、ご丁寧に、聞かれてしまった。
メニューにも冷たいそばのところに、書いてあるので、
冷たいもの、のつもりで頼んでいる。
(こんなところで、理屈をいっても始まらぬが。)
「はい、冷たいので。」と、答える。
きた。
ここには、この、とろろのだけの、つまみ、も、ある。
これは、すいとろ、と、いう。
これと同じものであろう。
そばを箸で取り、粘りが強いので、たっぷりとつけて、
食べる。
これも、むろん、うまい。
多少、あまるだけで、ほぼ、とろろも
終わってしまった。
そば湯がこないが、残った、とろろは、そのまま飲んでしまう。
いやいや、大満足、で、ある。
すぐに、勘定をして、出る。
天ぬきと、ビール。
そして、冷たいとろろそば(やまかけ)。
これで、一週間の疲れが癒されるのは、
私にとっては、考えようによっては、
安いもの、で、ある。
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