断腸亭料理日記2007
10月13日(土)第一食
さてさて、土曜日。
今週もやっぱり、そばや、で、ある。
毎週、毎週、もはや、病(やまい)、で、あろうか。
しかし、そばが食べたいのであるから、仕方がない。
神保町・松翁、池の端藪蕎麦、並木藪蕎麦、
先週が、鶯谷・公望荘、西浅草おざわ。
この選択基準は、よくわからぬが、その日その日、
自転車か徒歩で、ひょいといける範囲で、
行きたい、と、思った店、で、ある。
あとは、どこだろう、と、考えてみた。
歴史は、そこそこ古いのだと思うが、
一般的には、有名ではない、と、思われる。
しかし、この界隈で、落とすことはできない、そばやで、ある。
(翁庵といえば、ファンの方なら気付かれるかと思われるが、
鬼平など、池波作品にはかなりよく出てくる
蕎麦屋の屋号であったりするが、
ここが好きなのはそれが理由ではない。
そういえば、この翁庵は、断腸亭料理日記再開第一作である。)
11時過ぎ、自転車で出る。
場所は、浅草通り沿い。
上野警察署の正面、で、ある。
元浅草の拙亭からは、清洲橋通りを渡り、
下谷神社あたりを通り、ちょい、で、ある。
どうでもよいのだが、この下谷神社付近、今でも細い路地と、
長屋風の建物が残っている。
(戦災で焼け残ったのであろうか。)
まずは、広徳寺。
なん回か書いているが、「おそれ入谷の鬼子母神」という
有名な言葉があるが、それに続く、「びっくり下谷の広徳寺」。
の、広徳寺、で、ある。
震災後、と、戦後、二度に分かれて、練馬へ移転するまで
この界隈のランドマークともいえる、広大な寺域を
持っていたことがわかる。
加賀前田家をはじめ、柳生家など、大名家の墓所にも
なっていたようである。
この場所が、ちょうど、今の上野警察と、台東区役所になっている。
そして、通りをはさんで、南側、下谷神社。
今もかわらずお稲荷さんであるが
昔はそのまま、下谷稲荷、と呼ばれていたようである。
さて、この通りの名前であるが、今は浅草通りであるが、
江戸の頃は、広徳寺門前。門前を過ぎれば、新寺町通り。
西へ行くと、今は昭和通りがあり、広い上野の駅前ターミナルと、
上野駅になる。
江戸の頃は、むろん駅はなく
(ちなみに、上野駅の開業は明治16年と古い。)
寛永寺、上野の山の下にも、寺が並び、
比較的広めの今の昭和通りにあたる、
坂本、金杉、三ノ輪へ向かい、奥州日光街道になる、いわば街道。
そして、その東側が中小の旗本御家人屋敷と、ほんのわずかの町屋、
車坂町があった。
明治以降、車坂町は拡大し、今の浅草通りの南が下谷車坂町。
北側が、上と下の車坂町となっている。
そして、上野駅の拡大とともに、町は東に後退し、
車坂という名前は町会名と、少し南の通りの名前に残っているようである。
閑話休題。上野翁庵であった。
ここはいつできたのであろうか。
一度聞いてみなくてはいけない。
頑丈そうで、由緒ありそうな、日本建築。
やはり、戦争で焼け残ったのか。
いかにもそばやらしい、というのか、味のある家である。
時代がここだけ、江戸や、明治に戻ってしまったような
趣で、ある。
自転車を店の前にとめて、入る。
店の中は、囲炉裏風の飾りが付いた
大き目の机が左側にある。
明治、というよりは、流れているのは昭和の空気。
奥のテーブルに座る。
忙しいときには、食券制になるが、
そうでもなければ、そのまま座っても、なにもいわれない。
座れば、迷わず頼むのは、ねぎせいろ。
なにかというと、小さめのかき揚げにつけ汁に入っている
という、もりそば、で、ある。
かき揚げには、ねぎといか。
そばが、細めで緑がかっている、というのが
特徴、で、あろう。
緑がかっている、というのは珍しいのではなかろうか。
筆者は他では見たことがない。
しゃっきりと、のど越しがよく、うまい。
ウイークデーの昼などは、近所のサラリーマンやら、
お向かいの上野警察の刑事さん?、警察への、カツ丼の出前?、
(あの有名な、取調べ室で出てくる、カツ丼?!)
などなど、いわゆる町のそばや、ではある。
しかし、この雰囲気は、そうそう他には見当たらないし、
味にしても、どうしてどうして、水準以上であると思う
そんなものをひっくるめて、なくなってほしくない
東京でも稀有なそばやであると、筆者は思っている。
住所 台東区東上野3丁目39−8
TEL 03-3831-2660
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