断腸亭料理日記2007
10月13日(土)夜
さて、夜。
帝国ホテル、で、ある。
帝国ホテルといえば、昨年
シャリアピンステーキを食べにきた。
この時も、さんざん書いたが、帝国ホテルの日本の洋食、
フランス料理にあたえた影響の大きさ。
それは、レストランだけにとどまらず、家庭の食卓にも
広がっていた、と、いうこと。
今、日本の洋食系のレストランの多くのメニューにある
シャリアピンステーキが帝国ホテルの発祥であったということ。
そして、もう一つ、忘れてはいけないのが、ハンバーグステーキ。
帝国ホテルといえば、ハンバーグステーキ。
伝統のメニューであるという。
そういえば、日本のハンバーグの起源、いつごろ
どうやって入ってきたのか、わかっているのだろうか。
帝国ホテルがおおもとなのか。
ちょっと調べたところでは、よくわからない。
が、先に述べたように、大正から昭和、戦後にかけての、
帝国ホテルの日本の洋食界での影響力の大きさから考えると
やはり、今我々が食べているハンバーグの形とは無関係では
ないだろう。
実は、この帝国ホテル伝統のハンバーグステーキは、
この春まで、しばらく帝国ホテルでは食べられなかった。
それというのも、出していたレストランが改装に入っていたからである。
昨年、シャリアピンステーキを食べにいったのは、
地下にある、ラ・ブラスリーというところだった。
ここには、シャリアピン以外にも、“伝統の”と冠のつく
メニューがたくさんある。
たとえば、目の前で切り分けるというサービスを始めた、
ローストビーフや、エリザベス女王に饗し、名前をいただくことの
許しを得ているという「車海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王”風」。
しかし、ハンバーグステーキは、ここにはない。
ホテルの中でもレストランの格ということであろうか。
カジュアルなメニューであるハンバーグは、
レストランとしてもカジュアルな、今の名前は、
パークサイドダイナーというレストランで出していたのである。
その、パークサイドダイナーはこの春リニューアルオープンし、
ハンバーグステーキは、食べられるようになっていたのである。
といったわけで、内儀(かみ)さんとともに
食べにいくことになった。
ここは、カジュアル、ということだからであろうか、
予約ができない。
19時頃、元浅草の拙亭を出て、御徒町駅まで歩き、
JRで、有楽町まで。
日がいいのであろう。
有楽町の街は、なにか結婚式帰りの人々が多い。
パークサイドダイナーは、帝国ホテル本館の1階。
名前の通り、北側の通りに面している。
入り口でしばらく待たされるが、数分で案内される。
内装は、ダイナーという名前の通り、
白を基調にして明るく、モダンなアメリカンダイナーという
コンセプト、なので、あろう。
まずは、生ビールをもらい、メニューを見る。
ハンバーガーやら、チーズバーガー。
アメリカンなメニューが並ぶ。
アメリカンではあるが、価格は、帝国ホテル。
ハンバーガーでも¥2000を超える。
サラダ、ラージ。
内儀さんは、ハッシュドビーフ(ライス)。
筆者は無論、ハンバーグステーキ。
サラダがきた。
なるほど、アメリカンサイズ。
でかい。
二人でも、食べるのに一苦労、で、ある。
しかし、ウエイター諸氏のサービスは、さすがに帝国ホテルで、
きちんとしたものである。
サラダを食べるのに手間取ってしまったのか、
ハンバーグとハッシュドビーフを出すのを、待っていたようであった。
ハンバーグは、見た目は思ったより大きくはなく、
美しいまん丸。
ウエイトレス氏が、ハッシュドビーフのソースの器が熱くなっております、
ハンバーグは、ナイフを入れると、肉汁が飛び出ることがありますので、
お気を付けください、というコメント付きであった。
切ってみる。
が、タイミングを待ってたいせいであろう。
飛び出ることもない。
しかし、別段、食べる分には、十二分の温かさ、ではある。
味は、とてもオーソドックスなのではなかろうか。
なにか、特別な味や香りがある、ということではなく、
普通のうまい、ハンバーグ、に思われる。
それよりも、デミグラスソースの方が存在感があるかもしれない。
ただし、それもハンバーグとの比較、と、いう意味で、
デミグラスソース自身も、食べやすく、コク、酸味、など、
バランスのとれたものではなかろうか。
やはり“伝統の”という冠は、こういうことなのであろう。
特徴のあるものとすれば、むしろ、付け合せの
焼いたトマトや、マッシュポテトの方が、おもしろい。
(マッシュポテトは、なにが入っているのかわからなかったが、
若干ブラウンがかっており、別の食感がした。)
気合を入れてきたこちらとしては、なにか少し、肩透かしを
食ったような、気分ではあるが、いたってノーマル、
オーソドックス、普通にうまい、ハンバーグステーキ。
それが帝国ホテルのメッセージなのかもしれない。
(蛇足ではあるが、アメリカンな雰囲気と、このハンバーグステーキは
若干、ミスマッチのような気もした。洋食の王道ともいえる
ハンバーグステーキは“洋食屋”らしい、雰囲気が似つかわしかろう。
しかし、きっと、彼らのマーケティング上、このレストランは
アメリカンにしなければならず、他にこのハンバーグを置く
レストランもないので、しかたなく、ここに置いている、
そんな感じなのであろう。)
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