断腸亭料理日記2007
10月19日(金)夜
夕方から霞ヶ関ビルで集まりのようなもの(むろん仕事)があり、
終わって、外濠通りと桜田通り、TOTOのある、
虎ノ門交差点へ出てくる。
雨がパラパラと降ってきた。
一度、地下鉄に潜り、売店でビニール傘を買い、再び地上に出る。
このあたりで“この時間”。
ちょいと、一杯引っかけるには、絶好、と、いえよう。
虎ノ門砂場で、一杯やって、そば、というのも考えたのであるが、
この界隈、霞ヶ関の官庁街に隣接しているという、
ということもあるのだろうか、“いい感じ”の居酒屋もある。
断っておくが、筆者の“いい感じ”、と、いうのは、今風のお洒落な、
なにから隠れるのかと言ってやりたくなる、“隠れ家風”などでは
断じてない。
なかなか表現が難しいのだが、正しい居酒屋というのか、、、。
そんな感じの居酒屋。
実は、今日中に片付けねばならない仕事が一つ残っており、
この後、帰宅し、仕事をしなくてはならない。
御徒町やらガード下の立ち呑みほど“ゆるく”なく、
一応、背筋を伸ばして、ちょいと呑める、そんなところ。
居酒屋に入る前に、このあたりの昔、
ちょっと触れてみたい。
今、虎ノ門交差点の北、桜田通り沿いの霞ヶ関には、ご存知の通り
文科省、財務省、東側に経産省など、ずらりと官庁が並ぶ。
江戸の頃は、大きな武家屋敷。それもほとんどが上屋敷。
やはり、江戸城近くの重要な位置、であったといえよう。
外濠があり、虎御門。
外濠の外側、今の交差点あたりには、勘定奉行の役屋敷があったようである。
(勘定奉行役屋敷は、ここだけではなく数箇所、他にもあったようである。)
そして、今でもビルの間に鎮座しているが、金毘羅様。
もとは讃岐丸亀藩京極家が江戸の藩邸の中に勧請したもの。
そのころから、町人にも参拝を許していたということである。
そして、外濠、で、ある。
現代の外濠通りは、虎ノ門交差点からの新橋側、
外濠の実際にあった位置よりも南にある。
実際の外濠は、ちょうど、TOTOの一つ北のブロックであった。
ここの路地は、少し東に行くと、斜めに屈曲しているが、それが
そこが外濠であったことを物語っているようである。
ともあれ。
居酒屋であった。
虎の門・升本、と、いうところ。
虎ノ門交差点の南東の一画。
外濠通りからも桜田通りからも一本ずつ入った角。
藍色の大きな暖簾が下がり、白く店名が染め抜かれている。
自動ドアを入ると、大きな頑丈な木のテーブルが
いくつも並んでおり、もう既に始めている人々もある。
空いているテーブルに一人で座る。
お燗にしよう。
この升本、という屋号は、もともと東京に多くある酒屋のものである。
酒屋といっても、本来はいわゆる、居酒屋ではなく酒の小売、卸。
(いくつか系列があるのかもしれない。)
おそらくここも、もともとは、小売か卸の酒屋だったのであろう。
そのせいか、様々な地酒も置いてあるが、
定番の燗酒は、オリジナルの名前が付いている。
その名も、霞ヶ関と、虎の門。
霞ヶ関の方が、少し高い。昔の、一級と二級のことであろう。
霞ヶ関の方を頼む。
ガラスのコップに受けの小皿。
目の前で、金属の容器からあふれる様にコップに注ぐ。
つまみは、刺身や煮物、様々あり、たこ、
というのが名物のように書いてある。
三つ葉のおひたしと、秋刀魚の串焼き。
秋刀魚は半身ずつ、串に刺して塩で焼いてあり、
たっぷりの大根おろし。
うまい。
食べて、一杯で、予定通り、出る。
¥1130。
この店はいつ頃からあるのだろうか。
値段は、いわゆる立ち呑みとかわらなかろう。
しかし、官庁街の隣という、場所柄、客層、歴史からであろうか、
どこか背筋を伸ばさせるものがある。
この近く、桜田通りを渡った、裏通りにも鈴傳という居酒屋もある。
(ここも、酒屋の経営であったと記憶している。)
随分前に一度来たきりであるが、似たような雰囲気であったと
思われる。
新橋とはまた少し違った“正しさ”のようなものであろうか。
住所:港区虎ノ門1丁目8−16
TEL:03-3591-4523
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