断腸亭料理日記2007

鴨鍋(ねぎとしょうゆ)

11月21日(水)夜

寒くなってきたせいであろうか。
鍋が続いている。
それも、今日も、池波レシピ。

鴨鍋、で、ある。

鴨鍋というと、拙亭では正月。
甘辛で、芹を入れ、生玉子をくぐらせて食うのが通例になっている。

池波レシピでは、もう一つの鴨鍋がある。

作品は剣客商売。

おはるが実家(関谷村の百姓)から鴨やねぎ、芹、手打うどん、
などをもらってくる。

そういえば、関谷村で思い出したのだが、
いきなり、余談で恐縮である。

TVの剣客商売(藤田まこと版)をスカパーの
時代劇専門チャンネルでよくみるのだが、
この関谷村のおはるの実家が出てくることがある。

基本的に、京都近郊での撮影であるから、むべなるかな、なのだが、
関谷村の実家は、山がすぐそばにあり、段々の畑、いかにも山村。
これには、いつも違和感を感じてしまう。

関谷は、今は、足立区千住関谷。京成線の関谷が最寄だろうか。
筆者もさほど遠くはない、葛飾の四つ木に住んでいたので
土地感はあるのだが、隅田川、綾瀬川(これに今は、荒川が加わる)
などの川がすぐ近くを流れ、田んぼや畑、沼などがあったところ。
基本的には今でも平地で、坂すらない。
今、坂があるとすると、隅田川や、荒川の橋や堤防へ上がる坂である。

山が見えたとしても、遠く筑波か、秩父の山々。

池波先生の作品はどれも基本的には、江戸東京の実際の
地名が登場し、歩いてどのくらいかかるのか、といった“土地感”
のある時代小説である。
故郷の江戸東京を追体験したいという筆者などは
そこが大切なところなのである。
TVでもやはり、それを求めてしまう。
現代の鐘ヶ淵、関谷にオーバーラップさせてみる。
そうすると、どうしても違和感を感じてしまうのである。

ともあれ、鴨鍋、で、あった。


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小兵衛は、おはるに命じ、金鍋(かななべ)で葱と供に焼き、

酒をふくませた醤油(しょうゆ)につけて、(鴨を)食べることにした。


酒が出た。



池波正太郎著 「剣客商売 辻斬り〜老虎」新潮文庫から

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仕事帰り、近所のハナマサで(鴨胸肉、500g、600円程度)
買う。

帰宅し、まずは例によって、炭を熾す。

鴨肉は、凍っているので、レンジで解凍。

半解凍程度で取り出し、出刃包丁で半分ほどをスライス。
残りは冷凍庫へ。

鍋は、小さな鉄鍋。
すき焼き用の一番小さなものである。

お燗用に鉄瓶も熱くする。

あとはねぎを切るだけ。
火が通りやすく、薄く斜めに切る。

原作は「酒をふくませた醤油につけて」で、以前には、
これでやったが、ニキリを作るのが面倒なので、今日は、
酒としょうゆをそのまま、鍋に入れて焼くことにする。


お燗もつけ、皿やら箸やらをお膳に並べ準備完了。

火鉢で鉄鍋を熱し、脂身から入れ、馴染ませる。
肉、ねぎ、酒、しょうゆを入れ、焼く。


肉は、熱が入ると、みるみる縮んでいく。
色が変わったら、もう食べてもよいかもしれない。

すぐに、食べる。

ただし脂身は別。
大きなものは、鍋の中で外し、そのまま焼き、脂を出す。


しかし、肉もさることながら、脂の染みた、ねぎ。
ひょっとすると、こちらの方がうまいのではなかろうか。
これを意図して、細く切ったのである。

クタクタになって、脂が絡んだ白ねぎは
うまいこと、おびただしい。

ねぎをどんどん追加し、昨日の大根ではないが、
この“鴨脂ねぎ”は、いくらでも食べられる。

結局長ねぎ二本を一人で食べてしまった。

うまかった、うまかった。

ねぎとしょうゆの鴨鍋。
甘辛もよいが、これも、よい。




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