断腸亭料理日記2007

そばに関する考察、老舗系。

さて、昨日は、路麺に関して、考えてみた。

その過程として、一先ず、東京のそばやを、
1)趣味そば、2)老舗系そばや、3)町のフツーのそばや、
4)路麺(立ち喰いそばや)、と四つに分類した。

そして、路麺について考えてみた。
結論は、路麺は、趣味そばとも、老舗系のそばやとも違い、
その違いの本質は、そばよりも、汁に馴染んだ天ぷらを食わす、
ということにある。
路麺は、そばやでありながら、そばがメインではなくて成立してる。

こんなことであった。

考察方法のポイントは、この店は、この料理は、なにか?
なにを売っているのか、なにを求めてお客はくるのか、そこであった。

そば、というのは、昔から、そばっ喰い、なんという言葉もあり、
男の道楽のようなところがあった。
また、最近は、団塊世代の男性を中心に、そば打ちが流行ったり、

また、脱サラをして店を開いたり、
ある種、ブームといってもよいだろう。

なんとなく、以前からの疑問であったのである。

そもそも、そばとは、なんなのか?
そばや、とは、なんなのか?筆者も含めて皆、そばが好きだし、
なぜそんなに、夢中になるのか。その本質はなんなのか。

昨日行なった、路麺の分析方法で、そばやをもう少し、
考えてみようかと思う。

では、まず、筆者にとって簡単なところからいってみよう。

老舗系そばや。

老舗系とは、昨日定義をしたが、三藪(さんやぶ)、といわれる、
並木藪、神田藪、池之端藪、更科、砂場、など、東京で老舗といわれ、
江戸時代あたりまでその歴史はさかのぼることができ、
暖簾分けも数多くある店。
神田、まつや、もここに入れておこう。

簡単に、と、書いてしまったが、実はこの定義は難しい。

三藪と、まつやは、見た目に、わかりやすい。
店の佇まいも、いわゆる一軒家で、建物も古そうだったり、、
接客も独特であったり、そばも、、、などなど。

じゃあ、他にはあるのか。
砂場でいえば、虎ノ門砂場。
筆者、この日記では書いたことはないが、なん回か行ってはいる。
1923年大正12年の建築という、古い日本家屋。
創業はやはり、江戸、明治にさかのぼる。
これもよかろう。

問題は、店名は挙げないが、店としては古いのだが、
建物は新しいところ。創業は明治初期だが、ビルになっている老舗
というのがよくあるが、これらをどう扱うのか、で、ある。

と、ここまで書いて気が付いた。
既に筆者は評価をしていた。

筆者がいう、老舗系には、創業が古い、ということだけではなく、
建物から、接客、そばそのものまでを、含んでいたのである。

そこが本質、筆者がいう、老舗系の魅力であった。

そばそのものの、茹で加減、細さ、太さ、色、香り。
つゆの味(濃さ)、出汁の風味。
それが一つの料理となった、せいろ、や、天ぷらそば、などの、
一品一品の味。むろん、盛り付けられた器。
呑むのであれば、置いてある酒の銘柄、徳利、猪口、酒の味、
燗の温度、お通し、つまみ、の一つ一つと、その器。
そして、客を迎える声、送り出す声、注文を通す声。
そば、や、そば湯の出し方。
店の中。テーブル席、小上がり、壁、欄間、柱、置いてある屏風、、。
店の外。建物、植え込み、その他、もろもろ。
そして、そこで過ごす、時間そのもの。

これらすべてが、長年かけて、練り上げられて、練り上げられて
できあがっている。

どれかが欠けても、違ってしまう。

以前に、うなぎの、南千住、尾花で似たようなことを書いたが、
ここも、すべてがあって、成り立っている。
料理を含めて、これらすべてを守り残したいという意味で、
筆者は、重要無形文化財、人間国宝を差し上げたい書いた。

そば一杯だけでなく、すべてがあって、
例えば、池之端藪は、成り立っている。
それがよいから、そのそばやに行く。

だから、それだけで、除外してしまうのは心苦しいのだが、
やはり、創業は古いが、建物はビル、というのは、筆者がいう
老舗系に、入らない。

震災や戦災で、焼けて建て直したんだから、
ビルになるのは当然であろう、と、いうかも知れぬ。
それぞれ、様々な経営上の理由から、今のような建物
になっているのかとは、思う。
しかし、例えば、池之端藪にしても、並木藪にしても
今の建物は、おそらく、戦後のものであろう。
新築しても、昔の風情を残すことを、選択しているのである。
ここには明確な店の意思があろう。

老舗系の考察は、終了した。

図らずも、昨日の路麺同様、なにがよいのかといえば、
老舗系も、そば、それ自身ではなくなってしまった。

むろん、そばはうまいのだが、それだけ取り出して議論する意味は
ほとんどなく、総体である、と、いうことである。

さて、今日、老舗系から、除外してしまった、創業は古いが、ビルの店。
この周辺には、よく考えると意外に多くのそばやが、ある。
老舗系であるが、百貨店などのテナントとして入っているところも
含まれるかもしれない。

これらについては、別段、考察する必要もないかもしれない。
むろん、筆者も入ったことはあるが、この日記には書いていない。
否定するつもりもないが、先の、純粋老舗系と比べると、
魅力度合いは、残念ながら、遥かに及ばない。
(それよりは、上野の翁庵など、町のそばや、だが、一軒家の
日本家屋で、黒光りした柱があるようなところの方が、
魅力度は筆者には高い。むろん、上野翁庵は、そばも、うまい。)

もう一度書くが、やはり、文化、なのである。
東京のそばは、そばや、という舞台装置がある、食文化。
文化であるから、形式(スタイル)を壊してしまっては、
成り立たない。

東京のそば、そばやには、芸術にも近い、かけがえのない、
江戸東京の文化という側面があることを主張したい。


趣味そば考察(九段一茶庵本店、松翁と、少し考察その1)




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