断腸亭料理日記2007
12月6日(木)夜
関西出張で、19:00頃、新幹線で東京駅まで
帰ってきた。
さて、なにを食おう。
そば。
池の端藪へ行こう。
御徒町で降りて、歩く。
関西から帰ってくると、東京らしいものが
食べたくなる、のは不思議である。
池の端藪は、20時がラストオーダーのため、
やはり、19:30には店に入りたい。
池之端仲通りの呼び込みの声を縫って、
藪蕎麦までたどり着く。
戸を開けて入る。
ウイークデーのこの時間は、いつもさほど混んではいない。
テーブル席に座る。
お酒、お燗と、柱わさび。
温かいつまみがよいかと思ったが、小柱は好物。
吸い寄せられるように、また頼んでしまった。
すぐにきた。
毎度書いているが、この、お盆の上の箱庭のような空間。
右上に塗りの一合枡を袴にした、一合の真っ白なお銚子。
このお銚子のちょっとずんぐりした形もいい。
そして、お猪口は、上品な感じの薄い青。
左上に、細く切られた海苔をまぶし、小柱が盛られた、黒っぽい小鉢。
小柱は、つぶつぶとそれぞれが、光っている。
その下に、縞の模様が入り、わさびの添えられたしょうゆの小皿。
真ん中に、ちょこんと、この空間に誂(あつら)えたような
小さなしょうゆ挿し。(おそらく、誂えたのであろう。
これだけ小さなしょうゆ挿しは、他では見たことがない。)
そして、その下に、四角い緑の小皿に、そば味噌。
手前に、店の名前の入った袋に入った、割り箸。
焼き物の知識などない筆者であるが、
どれも乙なしつらえで、落ち着きがあり、上品、
奇を衒っていないものであろうと感じられる。
これからここで酒を呑む、という期待が、いやでも膨らんでくる。
これが、筆者が思う、池の端藪の、酒呑み空間、で、ある。
これだけでも、この店にくる価値はある。
一合の三分の二ほど呑んだところで、そばを頼むことにする。
温かいそばが、よいが、なにがよかろう。
かけ、海苔をかけた、花まき、おかめ、玉子とじ、かしわ南蛮、
天ぷらそば、小柱をのせた、あられそば、牡蠣南蛮、、などあるが、
やっぱり、鴨なん、で、あろうか。
鴨ざるは、なん度も食べているが、鴨なんは、
初めてかもしれない。
きた。
見たところ、鴨ざるの汁と似たような感じである。
食べてみる。
脂身に焦げ目のついた鴨肉。
肉の部分は、レアに柔らかく、上手に焼かれている。
それから、鴨肉のつくね。
焼いたねぎ、煮出し用と思われる、脂身。
熱いつゆが、腹に染みて、うまい。
鴨ざるも同様であるが、筆者は、ここの鴨南蛮の完成度は
かなりのもの、だと思う。
以前から書いているが、鴨肉は、煮てはいけない。
炙って別に入れる。でなければ、すぐに、縮んでしまう。
出汁は別に、脂身を入れて、味を出す。
これは、鉄則であろう。
その上で、鴨肉の厚み、焦げ目の付き具合、ねぎの焼き具合、
つくねの味、ゆずの香り、などなど、それぞれへの
神経の行き届き方は、群を抜いているように思う。
まさに、存在感のある一杯。
つゆも飲み干す。
席で勘定をし、ありがとうございま〜す、の声に送られて、
店を出る。
これだけ、豊かな気持ちになれる店、というのも
なかなか、ない。
池の端藪蕎麦、あらためて思うが、筆者にとっては、
今、最も、愛すべき、そばや、で、ある。
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