断腸亭料理日記2007

蛤の湯豆腐

12月19日(水)夜

いやいや、寒くなってきたものである。

今年の東京は、秋がなくいきなり冬になったようで
それも、ずいぶんと寒い。

温室現象で、暖かくなっている東京では、
ここなん年も、人によってはコートなどなしでも
ひと冬が過ごせるようになっていたように思う。

だが、今年は筆者の感覚では例年とは
だいぶ違うように思われる。
今日の最高気温は、9℃。
東京で、12月に最高気温が10℃に満たないというのは、
最近の感覚では、寒いであろう。
いや、昔に戻った、というような感じかもしれない。

8時前、コートの襟を立てて、オフィスを出る。
牛込の路地を大江戸線の駅に向かいながら、
なにを食べようか、考える。

このところ、やはり年末で、忘年会やら、酒席が続いている。
もっとも、酒席でなくとも毎晩、家でも呑んでいるいるから、
たいした違いはないようなものの、好きなものを並べて
呑むのとは、随分と違う。
その上、今週は、月曜日、呑みや、の廊下の段差につまずき、転び、
足をくじいてしまった。

その直後は、かなり痛く、また、腫れたりし、情けない話だが、
歩くのも難しいくらいであった。
まあ、これ自体は、もうほとんどよくなってはいるが、
今日は、なんの予定もなく、ゆっくり呑みたい、
というような心持ち。

寒いし、鍋。
蛤の湯豆腐など、どうだろうか。

これだけ寒くなり、正月も近付いてくれば、
蛤もよいだろう。

蛤の湯豆腐、は、池波レシピ
池波先生の好物であった。

筆者は、これで教えられたのだが、蛤のつゆで呑む燗酒は、
格別、なのである。

通り道のスーパーで蛤を買う。(中国産)
豆腐も普通のもの、木綿。

帰宅。

丹前に着替える。

そして、まずは、買ってきた蛤を水を入れたボールに入れておく。
これは、砂を吐かせる、というのではなく、
洗う、程度の意図、で、ある。
本当に吐かす、ためであれば、
2時間程度は水に入れておかなければならない。
中国産でも、今売られている貝類は、
ほとんどが砂など入っていない。

例によって、火鉢のために炭を熾す。

蛤の湯豆腐であれば、火鉢、で、あろう。

火熾しに炭を入れ、ガスレンジ。
5分ほど。
火鉢に移しておく。

しばらく、この日記書き。

さて、ボールの蛤、貝殻を、洗う。

ステンレスの小鍋に水を張り、蛤を入れ、
ふたをし、加熱。

この間に、豆腐を切っておく。

沸騰してくると、貝が開き始める。
塩で味付け。

この状態で、豆腐を少し入れ、火鉢に移動。

お燗用に鉄瓶に水を入れ、これもガスレンジで熱くし、
一合の銚子に酒を注ぎ、燗をつける。

長火鉢であれば、鍋と酒の燗が同時にできる。
毎度書いているが、こんなとき、長火鉢がほしくなる。

接亭にある火鉢は陶器のもの。
五徳は三本足の普通のもので、鍋なら鍋だけ、鉄瓶なら
鉄瓶だけ、一つの物しか載らない。

本質的には、この五徳の問題で、両方できるようにする、
鍋などが載る部分と、お湯を入れておいて、銚子を入れてお燗ができる部分がある
銅壺(どうこ)、と、いうものを火鉢に入れて、使うのである。

この銅壺は、調べてみると、陶器製の火鉢用のものも
あるようではあるが、やはり、長火鉢が一般的。

長火鉢がほしい、のである。

だが、今は、考えるだけで、買わないようにしている。
長火鉢も、銅壺も安くはないが、買って買えない金額
のものではない。
買わないようにしているのは、これ以上ヘンなものを
部屋に置いてしまってはイケナイような気がしている、のである。

陶器製の火鉢があり、実際に使っているだけでも
今は十分、と、思っている。

ともあれ。


蛤の湯豆腐。
こんな感じ、で、ある。

燗のついた、酒とともに、つゆを、呑む。

このつゆ、ようは、蛤のすまし汁。
味付けは、塩、だけであるが、これが辛口の燗酒と
実によく合う。

白だしを入れれば、などといった人もいたが、筆者には
他の味はいらない。塩だけのシンプルなものが、うまい、のである。

ちょっと違う言い方をすると、塩だけのものが、気分である。

蛤のつゆには、これ以上のものは、いらない。
これで酒を呑む場合は、なおさら、筆者には、塩だけがよい。
この相性がよい、ということである。

これで二合。
豆腐も一丁、全部、食う。

満足、で、ある。



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