断腸亭料理日記2007

とある昼飯の話題。

4月25日(水)昼

さて、今日は朝から一日、外人とのプロジェクトの
ミーティング。

わからない英語の上に、慣れない専門用語で
なかなかつらい一日であったのだが、
その昼飯のこと。

外人を含めたプロジェクトのメンバーとのランチ。
弁当を取ったのであるが、その中に、うなぎが入っていた。

外人との食事では「これって、英語でなんていうの?」
ということがよくある。

「うなぎって、なに?」

「イール?」

「シー・イール、っていわない?」

「うなぎは、生まれるのは海でしょ。そのときはシー・イール?」

「川で獲れるときには、イールで、海にいるときはシー・イールなの?」

よくわからない会話である。

うなぎはもとより、日本人ほど多くの種類の魚介類を、
本来はあまり食べない英米人である。
魚介類の名前を英語にするのは、あまり意味のない会話である。

一昨年であったか、メキシコのリゾート、ロス・カボスへいった
ときなども、おかしいと思ったことがあった。

ロブスター、で、ある。

ロス・カボスあたりでよく獲れるのか、
レストランにはよく置いているメニューであった。

英語で、ロブスター、lobster、と表記している。

ロブスターは、基本的には大きなはさみのある、大きな海老。
海のザリガニ。フランスでは、オマール、と、いうやつ、
と、思っていた。

しかし、出てきたのは、大きなはさみはない、日本でいう、伊勢海老。
ロスカボスの現地語である、スペイン語ではなんというののかは
わからなかったが、日本人の感覚からすると、
ロブスターと、伊勢海老は、違うものであろう!、と強く思われる。

英語では、あるいは、英米人にとっては、大きな海老は
みんな、どれも、ロブスター、で、すませてしまうのである。
魚介類の区別に大雑把な、英語、あるいは、英米人ということであろう。

ともあれ。うなぎのことであった。

うなぎは、どの辞書を見ても、eel(イール)で間違いはないようであるが
やはり、もう少し広く、うなぎに似て、
長くぬるぬるした魚(の、ようなもの)も、指すようである。

sea eel、はというと、どうも、穴子、のことのようである。

最近は、鮨が世界的に流行っているので、sea eel=穴子は
きっと、鮨ねた、の名前として、
穴子を指し示すようになっているのかもしれない。

しかし、穴子には、conger、という言葉もあるようである。
sea eel=穴子、は、実際には、海にいて、長くて
ぬるぬるしたうなぎのような魚、というような、いい加減な
名前のつきかたなのではなかろうか。

まあ、sea eel は、うなぎが海にいる時の名前、でないことは
間違いないようである。

筆者などはダイビングをするので、
ガーデン・イールという名前の魚も知っている。
日本名では、ちんあなご、という。

沖縄のはるか南西。西表(いりおもて)の海で見たが、
砂地から、ニョロニョロと頭を上にして、出てくる。
臆病な魚なので、近付くと、すぐに引っ込んでしまう。
なかなか、かわいい、ユーモラスな魚である。

大きさは、イール=うなぎ、というには、小さなものだが、
砂地を、ガーデン=庭、に見立てて、ガーデンイール、
という名前がついているのであろう。

どっちにしても、細長くて、ぬるぬる、にょろにょろした
魚が、広く、イール、なのであろう。

筆者が学生時代勉強した民俗学の隣の学問に、
文化人類学という学問があり、この中に
(と、いってよいのであろうか)
認識人類学、という学問体系がある。

モノやコトを指し示す言葉によって、その民族の
社会や文化を考える、という学問である。

言葉がある、ということは、そのモノやコトを認識している、
ということである、と、いうようなコンセプト。
逆にいうと、ある民族には存在する言葉が、別の民族にはない、
ということがあるが、それはそのモノやコトを、認識していない、
ということである、という考え方である。

例えば、白という色と、日本語で白という言葉がある。
日本人は、まあ、白といえば、さほどの使い分けはないと思われる。
しかし、一面の白い世界に住んでいる、エスキモーなどでは、
白でも、いろいろな言葉があるという。
あんな白、こんな白、日本人が白一言で済ましているのを、
様々に、区別をしている、というのである。

普段、頻繁に接し、区別する必要があるから、
言葉が存在する、のである。

魚介類の言葉も、日本人、日本語と、英語、英米人と
同じようなことがいえるのであろう。

日本人は、魚介類をよく食べ、うなぎも、穴子も、ハモも、
うつぼも、必要があって、違うものと認識している。

これに対して、肉食の英米人は、魚介類をあまり食べず、
カツオも、マグロも、カジキも、みんな同じ、ツナ、一本で
済んでしまう。
彼らの文化では、区別するほど意味のあることではない、
と、いうことなのである。




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