近所というには少し離れているが、南千住・尾花である。
うなぎといえば尾花。
東京には日本中、いや、世界中の食べ物がある。
しかし、東京の名物料理というものはなかなか思い当たらない。
ここのうなぎは東京の名物といってよいと思う。
いや、名物などという言葉では言い足りない
重要無形文化財・いわゆる人間国宝というものがあるが
歌舞伎、人形浄瑠璃、陶芸、染色、等々。落語でさえ認められた。
料理の世界では聞いたことがない。なぜであろうか。
ここは、店のたたずまい、客の入る、入れ込みの座敷なども含めて
そしてもちろん、蒲焼そのもの、東京のうなぎ屋食文化を代表している。
南千住というのも、いい。
南千住は古くは小千住、小塚原(こづかっぱら)などと呼ばれ日光街道の
第一の宿場。荒川を渡った、
現北千住(小千住に対して大千住)と対(つい)であった。
最近、少しきれいになったような気もするが、山谷も近い。
それも、いい。
注文が入ってから作る。うなぎ屋の身上である。
お新香、鯉の洗いで、呑みながら待つ。
入れ込みのため、隣の会話もそのまま聞こえる。
客層は地域的に推して知るべし、である。
これも、いい。
生臭くなく、柔らかく甘く、さっぱりした白焼きをわさび醤油で。
この辺で、ほとんど、出来上がってしまう。
鰻重。
うなぎは、口に入れれば、もちろん、とろり。さっぱりとした、たれで、
いくらでも食べられる。
まさに、絶品。
すべてを通して、絶対になくなって欲しくない、形を変えないで欲しい
現代に江戸、東京の食文化を体現する場所。ここが宝でなくてなんであろう。
店はこむずかしいことを言うわけでもなく、
客は入れ込みでワイワイ呑んでうなぎを喰う。
南千住・うなぎ尾花。人間国宝を差し上げたい。