断腸亭料理日記2006

うに瓶詰め

1月3日(火)夜食

さて、三が日も終わりに近付き、どうしたって、
さっぱりしたものが、食べたくなる。

白い飯に、、

なんであろうか、
佃煮は、食い飽きた。

新巻鮭も、箱根の帰りに小田原で買った、鯵の開きも、
それぞれ、2回ほど食べた。

酒盗(鰹の塩辛)もあるが、正月である。
塩辛でも、、ないか、、、。

お新香、だけ、というのも、寂しい。

!!

うに、である。
大晦日に、神田まつや、で買った、うにの瓶詰め

これ、実のところ、まだ昨年のが残っていたのである。
ちょうど、1年前、で、ある。

筆者にとっては、取って置きの、つまみ、である。
どうも、これという時にのみ、と、思っていたら、
こういうことになってしまったのである。

食べ切ってしまおう。

うにの瓶詰め、というものも、いろいろある。
筆者などは知らなかったが、東北や、北海道では、塩漬けにしたものがある。
妻の実家から、うにの瓶詰めが送られ、喜んで開けて食べてみたら、
なんと、この塩うにで、かなりのショックを受けた覚えがある。
この塩漬けのうには、まったく、似て非なるもの。
そのまま食べると、塩辛ら過ぎる。
(よくはわからぬが、このまま食べるのではなく、塩抜きをし、
鮑などと煮る、いちごに、などに、使うのではないか、、。)

ともあれ、これではなく、アルコールと塩で熟成させたもの。
これが、練りうに。
まつや、で毎年買う、下関の、岡本のうに、は、こちら。

子供の頃から、筆者、この、練りうに、が、大好きであった。
子供なんぞの食べるものではない、と、叱られたような記憶があるが、
好きなものは、仕方がない。
ついでに、筆者、酒盗も、好きな子供であった。
こんな物が、家にあった、というのは、父は一滴も呑めなかったが、
祖父が大酒呑みであったせいである。
むろんのこと、子供の頃の筆者は、飯と食うのである。
呑みはしない。

また、池袋駅の地下に、スナックランド、という立ち喰いの
そばだの、サンドイッチだの、焼きそばだの、を食わせる
ちょっと大きな飲食コーナーがあった。
ここの、おにぎり屋で、練りうにを、たっぷり塗ったおにぎり
というのがあったのである。
ちょっと高いが、夢のような食い物として、
当時、ちょっと奮発して買い喰いする、もの、で、あった。

さて、今の、練りうに、で、ある。
大人になってからは、なんとなく、忘れていたものであった。
練りうに、というよりも、うに加工品、というのか、
くらげ、いか、などなどと、和えた、安い珍味が、
多く出回るようになり、地位の低下と、
味の低下、も、あったのだろう。
筆者は、練りうに、を忘れていた。

また、酒のつまみとしては、酒盗、などは、地位が上がり
今は、そこそこ高価なものになっている。
しかし、グルメ誌などでも、練りうには、あまり騒がれるつまみでは
ないのでは、なかろうか。

筆者が、練りうに、を思い出すきっかけは、落語、で、あった。
10年以上前である。まだ、存命であった、桂文治師匠。
場所は上野鈴本、親子酒、で、あった。

噺自体は、短い。
互いに禁酒をした、大酒呑みの親子。
親爺が息子に隠れて、一杯くらい、わからないだろう、と呑み始め、
一杯が二杯になり、結局ベロベロ。
そこへ、息子が帰ってくる。
息子も、得意先で、どうしても断れず、同様に、ベロベロ。
この酔っ払った息子の姿を見た親爺は、自分のことは、棚に上げ、
「約束の守れないような奴には、この家は譲れない。」と、いい出す。
これを聞いた息子は、「俺も、こんなグルグル回る家なんか、
いらねえや」。

親爺が呑む時に出るつまみ。
本当は、佃煮でもなんでもよいし、つまみの
種類など、いわなくとも、成立する噺だが、
文治師は、ここに、うに、を出していた。
きっと、師匠が好きだったのであろう。
とても、うまそう、で、あった。

これを聞いてからである。
「そうである。練りうに、は、うまかった」
と、思い出し、まつや、で、見かけて買ってみた。
値段が¥3000と高いこともあるが、
これが、うまいこと、うまいこと。
そして、年越しそばと対(つい)で購入する、年中行事になったのであった。

前置きが長くなったが、これを、思う様、白飯に塗って食べる。
このことは、子供の頃同様、今でも、夢のようなことである。
飯を炊き、瓶詰めを開けてみると、思いがけず、多く残っていた。
これは、もう、満面の笑み、で、ある。

やはり、うには、酒や、ビールのつまみでもよいが、
白い飯が、最もよい。
また、この、下関・岡本のうに、は、きりっとさっぱりした味で、
うにの旨みが、こってり。
味醂なのか、なんなのかわからぬが、余計な甘みや、味が、
入れられているように思えるものが多い中で、シンプルにうまい。

なにか、小さい頃食べた、あのうまかった、味が蘇っているように
思うのである。

あまりのうまさに、飯、二膳。

大満足、で、ある。

岡本うに



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