断腸亭料理日記2006

今年納めの、

浅草・洋食・ヨシカミ

12月18日(月)夜

浅草六区の洋食屋、ヨシカミのカウンターに座って、
チキンライスを食いながら、ちょっと、考えてしまった。

この店ほど、賛否両論分かれるところも、少なくないかもしれない。

どうであろうか、浅草では最も有名な洋食屋と
いってもよいのではなかろうか。

試みに、googleで「浅草 洋食」で、検索してみると、
案の定、ヨシカミがトップに表示される。
だから、いろいろといわれる、ということも、あろう。

では、賛否の「否」の方の中身はなんであろうか。

「高いわりに、態度、雰囲気がガサツ、味もそれほどじゃない」。

煎じ詰めると、こんなところであろうか。

ファミレスや、駅前の定食屋と同じメニュー“なのに“
そして、雰囲気も下町っぽい、庶民的な感じ、、
“なのに”この値段なのは、納得がいかない。

人形町の小春軒なども、同様に扱われることが多いようだ。

まず、第一点目。高い、ということ。
これは、そもそも、東京の洋食屋というジャンルの店は、
ハンバーグ¥1500くらいは、あたり前、である、
という前提を憶えておかなければならない、ということ。

東京の洋食屋は、銀座の煉瓦亭を筆頭に、創業は明治、大正
なんというところは、ごろごろしている。
(小春軒、だって馬鹿にしていけない、ああ見えても
創業明治45年、で、ある。)

そもそも、明治から大正、昭和初期のハイカラ文化、
とでもいったらよいのか、第二次大戦に入る前、リベラルで、
モダンであった時代までの、東京に育ったのが東京の洋食である。

そして、それを裏付けることにもなろうが、
いくつかの東京の老舗洋食屋の立地は、いわゆる、当時の花街にある。

日本橋人形町、先の小春軒、そして芳味亭

根岸、香味屋

浅草観音裏は、グリル・グランド

グリル佐久良などなど。

芸者さんやら、そこで遊んだ旦那やら、そういった(お金のある)人々が
育てたのが、東京の洋食屋なのである。
そんな背景に生まれたものが、安かろうはずがないではないか。
そもそも、駅前の定食屋とは、生い立ちが違うのである。

この歴史を知らないで、ただ「高い」と、批判するのは
あたっていない。

まあ、そういう人は、ただ、己(おのれ)のみ、
いかなければよいのだが、前にも書いたが、
今のネット社会の恐ろしさ、知らずに発言するのである。
(発言するな、とは、むろんいっていない。
知った上で発言してほしいのである。)

そして、問題は、そこに価値を見出すかどうか、で、ある。
まあ、これも、価値を見出さない人は、いかなければよい。
そういってしまうと、話は終わってしまうが、価値観、歴史や文化は、
押し付けるものではないから。

価値を見出す人は、その店の立地やら、迎えてくれる店の人の
顔、言葉、動作、店内の内装、メニュー構成、盛り付け、
食い終わり、勘定をする、送り出す店の人の言葉、、、などなど、
料理本体だけではない、その店が持つ無形のものに、
金を出しているのである。

むろんそれらは、店それぞれによって違っている。
また、違っているのが、おもしろい。

入り口のドアをご主人が開けてくれる、煉瓦亭は銀座の上品さ。
小春軒は日本橋人形町の親しみ。
(意外かもしれぬが、生の人形町は、気取らない街である。

しかし、断っておくが、気取らないのと、安い、というのは違う。
小春軒は下町っぽい雰囲気かもしれぬが、日本橋人形町と
皆さんの知っている下町っぽい代表、例えば月島、なのか、、、、
とは、先に述べたように、街の生い立ちが、まるで違うのである。
本来の日本橋人形町は、高級料亭の街。
今でも、すき焼きの今半、喜寿司等々、、
桁違いの価格の店も、ごろごろしているのである。)

さて、ヨシカミは、どうなのか、で、ある。

そうなのである、ここまできて、やっとヨシカミの話題に
たどり着くのである。

東京の洋食屋が、高い理由。
歴史、文化、、そんなものを理解してもらった上で、
なければ、ヨシカミが好きな理由が説明できないのである。

かなり、ハイレベルな、?、いや、わかりにくい、
店なのかもしれない。

冒頭の、「ガサツ」なのは、粋、なのである。
銀座の上品さもよいが、職人の忙しく立ち働く姿、フライパンを振る
鮮やかな手さばきを見たいからいくのである。
そして、ほっといてほしいから、いくのである。

ヨシカミは、そういったものも含めて、
一“個”の浅草の洋食屋なのである。
(今の彼らは、おそらく、それを明示的に意識してはいない。
そこも、いい、のである。)

価格が高ければ、万事に上品で、ゴージャスで、接客も丁寧でなければ
ならない、というごく普通の認識では、理解不能であろう。

さて、筆者はここまで、意識的に、
味のことには触れてこなかった。

ハンバーグや、クリームコロッケ、チキンライスそのものの味。
下ごしらえも含めた、手間の掛かり方。
馴染み深いメニューであるだけに、これらはとてもわかりにくい。
また、個人個人の好き嫌いも、むろんある。

先に述べた、歴史やら、店が持っている様々なものを全部取り払って、
その料理だけで、どうなのか?、うまいのか?、
それだけの値段の価値があるのか?と、いうようなこと。

ここまで書いてくれば、これらは意味のない議論である
と、いうことはご理解いただけるのではなかろうか。

店の持っている様々な背景を含めた、一つのチキンライスなのである。
(ヨシカミのチキンライスは、むろん、うまいし、手も掛かっているが、
それはわかりにくいし、個人の好みであるから、、、。)

(しかし、グリルグランドのミックスフライなど、目隠しをして、
一つの料理として、どこへ出しても
けっして誰にも文句は言われない、日本一の料理もある。)

さてさて、ヨシカミのことから、東京の洋食屋論、に、なってしまった。
今年の、断腸亭料理日記、洋食編のまとめ、で、ある。



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