断腸亭料理日記2005

池之端・藪蕎麦

7月21日(木)夜

ここに書くのは久しぶりなのか、
来たのも、久しぶり、なのか。

よく憶えていないが、久しぶり、である。

まだ、風邪は治らず、本調子では、ない。

19時前、オフィスを出て、家路。
今夜は、なにを食べようか。
あれこれ、考える。

微熱があるせいか、やはり、温かいものがよい。

蔵前家(寿の家系ラーメン)か、とも、思ったが、
ちょっと、気分をかえて、池之端藪、である。

時間が早いせいか、今日は、この上野池之端の一角も心なしか、
人出が少ない。

そうはいっても、同伴のお姐さん方も、ちらほらと見かけたりもする。

お姐さん方は、この季節になると、浴衣(ゆかた)姿に、なる。
やはり、涼しげで、ある。

格子を開けて、店に入ると、
なぜか、テーブル席は埋まっており、座敷は空いている。
いつも、一人の場合には、テーブルであるが、
今日は、座敷に上がってみる。

酒はやめようかと思っていたが、
しながき、を、見ていると呑みたくなってしまった。
ビール小瓶ならば、よかろう。

つまみは、はしらわさび。

はしら、は、小柱、のことである。

お盆に載って、運ばれる。

この、お盆の上が、実によい景色である。

手前に箸置きにのせられた、箸。
その上、左側に小さな四角い皿に、ちょこん、と盛られた、そば味噌。

その上には、これも、ちょこん、とした、
という表現がぴったりする、小さな、しょうゆさし。

その上に、わさびが添えられた、しょうゆの小皿。

そして、右隣には、足のついた、器に、肝心の小柱。
糸のように細く切られた、海苔が散らされている。

右手前にビールグラス。
ビール小瓶は、お盆の外。ヱビス、である。

筆者、陶器・焼き物には、知識がなく、
それぞれの、器について、描写ができないのが残念であるが、
20cm四方の小さなお盆の上に、まったくもって
粋な世界が展開されている。

小さいところが、よい、のである。
また、お盆もへんに、新しくなく、多少剥げているのも
また、よいのである。

手酌でグラスに注ぎ、しょうゆをさし、小柱をつまみながら、
呑む。

そば屋のつまみも、いろいろある。

ここでも、ポピュラーな、板わさ。天ぬき、鴨ぬき。
(天ぷらそば、鴨南そばの、そばぬき、という意味である。)

それから、鴨を焼いた、合い焼き。
わさびいも。(これは、いわゆる、山芋の千切り。)
などなど。

そして、筆者がよく頼む、すいとろ。
(つけとろそばの、そばぬき、である。)

そして、値段も高いが、はしらわさび。
そば屋のつまみとしては、最も粋なつまみではないだろうか。

板わさでは、ちょっと、月並。
天ぬきや、鴨ぬきは、野暮。

やはり、はしらわさび、に留めを刺す。


さて、そば。

温かいもの、、。なにがよかろう。

はなまき、にしよう。

はなまき、とは、もみ海苔を入れたものである。
わさび、が添えられる。

器は、小ぶりな、クリーム色のまったく模様のない
無地のもの。

この器もよい。

箸にわさびを付けながら、海苔とともに、そばをすする。
この味、やはり、並木藪ほどではないが、しょうゆがきつい、
と、思われる方もおられようが、このくらいが、筆者には、よい。
特に、海苔には、しょうゆが、立った方が、よい。

また、ここの海苔は、黒々とし、とてもしっかりしている。

最後にそば湯で割って、飲み乾す。
そば湯で割ればわかることだが、むろんのこと、
ただ単に、しょうゆが濃いだけではなく、
出汁もきいているのがわかる。


うまかった。
これも、幸せなひと時である。


HP


『募集』
「断腸亭に食わせたい店、もの」、随時、大募集。
あなたのお勧め、ご紹介いただければ、うれしく思います。
その他、ご感想、ファンメール(?)も是非!!

断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5 |

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16

BACK | NEXT |

(C)DANCHOUTEI 2005