断腸亭料理日記2005

鯵煮びたし

5月21日(土)夜

浅草は、三社祭りである。

第一食は、毎度お馴染み、千束の路麺、ねぎどん、であった。

ねぎどんも、三社祭。

筆者の住む町内は、三社様の氏子ではなく、鳥越様の氏子である。
鳥越神社は、名前通りおかず横丁でも有名な鳥越にあり、
駅であれば、蔵前が近いところである。
毎年、この東京でも一番遅い6月に入ってからで、
今年は、6月11、12日である。

*千貫神輿(せんがんみこし)と呼ばれる、
大きな本社神輿(ほんしゃ、または、ほんじゃみこし)を
各氏子町内が引き継いで、狭い下町路地を渡御(とぎょ)する。
また、鳥越の夜祭とも呼ばれ、神輿に付いた提灯に火が入り
各町の高張提灯が揃う、壮観な宮入も自慢である。
ちなみに、筆者の住む町は、池波先生が育った町の隣町である。
(この町とは、もちろん、旧町である。町内会活動や、お祭りは、
今でも、旧町が単位である。町で揃いの半纏(はんてん)を着て
神輿を担ぐのである。)

ともあれ、それは、3週後のことである。
午後、おかずを買いに、赤札堂まで。

鯵が、安い。旬である。
普通の大きさのものが、¥100。
先週は、たたき。昨日の一心では、握り。
旬の鯵は、堪えられない、うまさである。

今日は、煮びたしにしよう。
昨年初めて、作ってみた。

これも、池波正太郎レシピである。

昨年は、習慣で、塩をして、焼いてしまった。
あとでつゆで煮るため、素焼きでよかったのである。

焼く。

なんということもない、ガスレンジで焼くだけ。

ちょっと気を付けたのは、もう一度熱をがかかるので、
焼き過ぎないようにしてみた。

先日の、鰈の煮付けは、水から煮る、そして、煮過ぎない、
というのがポイントであった。

そこで、今回も、水からにしてみた。

しょうゆはちょっと、濃い目。そして、酒。
砂糖はなし。

煮立ってから1分ほどで火を止める。

煮びたしである。食べるのは、冷めてから、夜。


なるほど。
よい味である。じんわりと、味が染み込んで
鯵の味も引き立てられて、うまい。
魚はなべて、火を通し過ぎない。
煮過ぎない。魚の味がつゆに出ない、塩梅、であろう。

茶わんに酌(く)んだ、菊正宗の冷酒(ひやざけ)、に

抜群の相性である。

鯵の煮びたしの登場する、鬼平の一節である。

************

おまさが、本所・相生町の家へ帰ったのは夕暮れになってからである。
大滝の五郎蔵は、夜になってから帰って来た。
今日も五郎蔵は、暑熱の日中を変装して江戸中を歩きまわり、
「怪しい奴・・・・・・」
に目をつけていたのであろう。
おまさは、五郎蔵が好物の紫蘇の葉をきざみこんだ瓜揉みと、白焼きにした
鯵を煮びたしにしたものを膳に乗せ、これも五郎蔵の好みで、冷酒を茶わんに
酌(く)んで出した。
(池波正太郎・鬼平犯科帳10巻「むかしなじみ」文春文庫)

************

瓜もみもそろそろ、季節であろう。

*千貫神輿 せんがんみこし。大きい神輿のこと。
貫は、重さの単位。1貫は3.75kg。
そういえば、百貫デブ、なんという、言葉もあった。

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