断腸亭料理日記2024
4686号
11月25日(月)第一食
さて、月曜日。
11月も終わろうとしている。
なにを食べよう。
うなぎ、は、どうだろうか。
実は、うなぎは、今頃が旬。
うなぎといえば、夏の土用の丑の日、というのが、
定着しているが、ご存知の通り、江戸期、お客が
減る夏のキャンペーンとして、平賀源内が考えた、
と言われている。
うなぎというのは、冬を前に餌をたくさん食べて
太って脂がある今頃が、最もうまい、と。
(まあ、養殖ものがあてはまるのかは、わからぬが。)
ともあれ、もう200年以上も、うなぎは夏、と
言われ続けて、人々も、パブロフの犬のように、
夏になるとうなぎが食べたくなるようになってしまって
いる。各言う私も、やっぱり食べたくなる。
不思議なものではある。
ともあれ。
どこがよかろう。
日本橋高島屋の特別食堂の[野田岩]。
ウイークデーだし、あそこであれば、時刻の制限がない。
土日であれば、時分時(じぶんどき)でなくとも確実に
待つ。が、ウイークデーであれば、そんなことも
なかろう。
誠にもって、使い勝手がよい。
また、サービスも、帝国ホテルのもので、最高。
あまり、ぼやいてばかりいること自体、我ながら
不愉快だが、ああいうサービスに接すると心底
ほっとする。
銀座で買い物もあるので、行こうか。
そこそこの格好をせねば。
ステンカラーのコート、紺のソフト帽、ブレザー、
下はジーンズで、サドルシューズ。
1時頃出て、銀座線で銀座まで。
買い物を済ませて、日本橋まで戻ってくる。
[野田岩]は麻布が本店だが、この日本橋高島屋
特別食堂には昔から入っており、池波正太郎先生もよく
買い物や、映画の試写を観に来られた際に、よく
寄られていた。それで、ここも池波レシピ。
階上の特別食堂まで、エレベーターで上ってくる。
2時半頃到着。
やはり、ほぼ待たずに入れた。
さすがに、ここは外国人観光客はいない。
いつも通り、年嵩の上品そうな方々がお客。
ご夫婦、親子、男性一人、そんな人もいる。
丁寧なサービスでテーブルに案内され、着席。
高島屋だが、サービスは帝国ホテル。
皆、にこやかなのが、持ち味であろう。
もちろん、慇懃なものではなく、心からのもの
というのが伝わってくる。
まったく、敬服すべきことである。
さて、どうしようか。
ビールはもらうとして、1万円弱のセットがここには
二つある。
一つは、うな重に白焼き(志ら焼)、う巻き、燻製
等が付いたものともう一つは、同じくうな重に、白焼きの
セット。
いろいろ付いた方は、食べたことがある。
ウエイトレス氏になにが違うのか、聞いてみると、やはり
にこやかに説明してくれる。
いろいろ付いた方が、呑むことを想定しており、
もう一つは、やはり、重、白焼きのうなぎが多少大きい
とのこと。
では、ビール、サッポロ黒ラベルと、いろいろ付いた方を
お願いする。
ビール。
黒ラベルは、今時、なかなか見なくなった。
こちらの体調もあるのか、苦みが強い。
こんなに苦かったろうか。
ほどなく、きた。
お重のふたのこの絵柄、なんであろうか。簪(かんざし)?。
上を開けると、こんな感じ。
生わさびののった、白焼き、キャビア、大根の薄切りで
はさんだうなぎの燻製をごく薄く切ったもの。
青紫蘇の葉の向こうが、う巻き。
大根おろし、お新香、肝吸い。
そして、なにより、このお重自体がかなり熱い。
お重自体も温めているのであろう。
やはり、白焼きは熱いくらいでなければ、いけなかろう。
下は、もちろん、うな重。
一度、戻して、呑みながらつまむ。
白焼きは、ほろほろに柔らかく、箸でつまみにくいほど。
味は脂がのり、まさに堪えられぬ。
燻製は乙なもの。
つまみを片付け、お重。
山椒をふる。
皆さん、お重はどうやって食べるであろうか。
私はどうしてもお重自体を手に持って食べてしまう。
どうなのであろうか。これ。
もともと、うなぎは丼であったので、丼は持って
食べるのはむしろ、和食ではマナーであろう。
従って、お重も持って食べてよいはず。
ここも、さっぱり、辛口の江戸前であろう。
浅草よりは、気持ち薄いか。
うまかった、うまかった。
大満足、ご馳走様でした。
会計は、11132円也。
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