断腸亭料理日記2024

浅草弁天山美家古寿司 その3

4621号

さて、三回に渡ってしまったが、
浅草[弁天山美家古寿司]。

にぎり鮨というのは、なんであろうか。

江戸時代後期の江戸で、文政年間1820年代、に生まれたと
言われている。一応、文献があるので正しいのであろう。

私達東京者にとっては、天ぷらや、うなぎ蒲焼同様、
故郷の味である。

もちろん、今は鮨は世界中に広まり、各国各地で
これが鮨?と思われるものも含めて様々なものが
現れている。

どんなものでも、江戸・東京で生まれた食い物が
世界に広まったのは誇らしいことである。
各地の鮨(らしきもの)を否定すべきものではないと
思っている。

色んな食文化の中でアレンジされるのは、むしろ
当然のことで、それも文化である。
かくいう、我々も、イタリアやフランスのカツレツを
とんかつにし、さらにかつ丼にしている。
もはや元の形とは似ても似つかぬ日本食になっている。
これでいい、のである。

発祥地である、東京はどうであろうか。
東京でも若い職人が新しい試みをして客を集めてもいる。
これも、私はよいことだと思う。
志ある料理人であれば、伝統はむろん知っているであろうし、
それを踏まえ、試行錯誤をし、より高みを目指すべきである。

が、しかし、で、ある。
にぎり鮨が江戸でどのような姿で産まれ、東京でどのように
進化してきたのか。また、なぜそういう道を歩んだのか。

これらを、皆、とはいわぬが、少なくとも私は知って
置かねばいけないと思うし、書いて伝えていこうと
思っている。
そういう意味で、その姿を残そうとしている、
浅草[弁天山美家古寿司]は希少であり、また、今の
私の住む地元浅草の店であり、通うべき鮨やである、と。
もちろん、お店にご迷惑が掛からない範囲で。

ともあれ。

白身、いか、新子など光物、蒸し鮑など貝、まできた。

次は、これ。

海老。見た通り、さいまき海老。
小型の車海老である。薄い甘酢漬け。

海老はゆでてそのまま置いておくと、どんどん水分が
抜けていく。鮨ねた用に、ゆでた状態で流通をもして
いるが、これはパサパサ。
酢に漬けるのは、それを防ぐ意味もあるだろう。
ぷりぷり。

若親方は、おぼろ好きの内儀(かみ)さんに気を利かせて
たっぷりはさんでくれた。
おぼろをはさむ種は、一応、酢味のものということに
なっている。小肌だったり酢〆のもの、やはり酢に
漬ける貝類、そして、海老。

そして、これ。

蝦蛄。
甘いたれが塗られている。

なぜであろうか、以前はあまり食べていなかった。
ここのショーケースで出汁に漬けられているのを
見て、うまそうに思い頼んでみたら、そのうまさに
驚いた。

やはり、蝦蛄もゆでて流通しているが、ここはただゆでた
だけではなく、甘くない鰹の利いたしょうゆのつゆに
着けているのである。色も多少付いている。

子供の頃を思い出すと、蝦蛄は好きであった。
私の父、そして父方は代々今の大田区大森あたりの
生まれ育ち。
大森海岸は海苔の養殖で有名であったし、砂地の
遠浅で、蝦蛄もたくさん獲れ、家でゆでておやつに
食べていた、と聞いていた。それで私も馴染深かった
のである。
が、成人後、生で売っている蝦蛄を自分でゆでて
みたことがあるが、かなり難しい。ものにも
よるのであろうが、スカスカになってしまった。
それがなん回かあり、いつしか蝦蛄自体を敬遠する
ようになってしまったのである。

もちろん、プロのものはうまいことこの上ない。

さて。
そろそろ終盤。

内儀さん用に、若親方が出してくれた。

小さな丼。
なにが入ってるかというと、おぼろ、細かく切った玉子焼き、
同じく生姜(鮨やでいうガリ)、同じくかんぴょう、
下に酢飯、上から甘いたれ。

若親方が若い頃、まかないで出ていた、という。
一口もらったが、なるほど、これはうまい。

それぞれおわかりであろうか。
おぼろは、今までも登場しているが、芝海老や白身魚を
細かくし繊維をほぐし、甘く味を含めたもの。でんぶに
近いものだが、そこまで甘くはしていない。
玉子焼きは、江戸前鮨やの昔からの玉子焼き。
今のものではなく、昔からのすり身を入れたもの。
伊達巻に近い。
すべてこの店にいつもあるものの組み合わせだが、
それぞれが当然のようによく合っている。
甘いが、甘すぎない。

最後は、鉄火巻。

ただのまぐろではなく、づけまぐろの鉄火巻。
こういうのも、またよいもんである。

まぐろは、中とろも、づけも今日は食べなかった。

そうである。
若親方が言っていたが、この季節に鰹に脂があるのは
いいのだが、まぐろに脂がのらない、と。鰹が北上した影響、
なのか。やはり、太平洋の生態系が変わっているのは事実。
もちろん、まぐろだけが鮨ねたではないし、獲れるものを
うまく食べればよいのだが。まあ、複雑。

ともあれ、ここまで。

勘定は、二人で合計、27,000円也。

いつも通り、今日も、うまかった、うまかった。

ご馳走様でした。

 

弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 

 

 

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