断腸亭料理日記2005

秋刀魚飯

9月3日(土)

さて、先週から、秋刀魚のうまい食い方はないものか、と、
考えていた。むろんのこと、塩焼き以外である。
塩焼きは、大好きである。

久々に、池波先生である。
「味と映画の歳時記」というその名の通り、
月毎に書かれたエッセイ集、である。この9月の項に、秋刀魚の記述がある。

ちょっと、引用させていただく。

***

 秋刀魚は塩焼きにかぎるが、戦前に浅草・千束町の小料理屋で、

「ちょっと、旨いもんですよ」

 と、秋刀魚飯を出されたことがある。

 いま、よくおぼえていないが、秋刀魚を蒲焼のようにしておいて、

釜飯用の小さな釜の飯がふきあがったところへ入れて炊く。

 そして、私たちの前へ出すとき、手早くまぜ合わせ、もみ海苔を

かけて出してくれた・・・ようにおもう。

 うまかったおぼえがあるが、これはちょいと家庭ではできない。

できぬことはないが、うまくはあがるまい。

***「味と映画の歳時記」池波正太郎著 新潮文庫

秋刀魚飯、で、ある。

浅草・千束町の小料理屋、というのが、また、よい。
どの辺であろうか、などと、想像してしまう。

戦前であるから、池波先生もまだ、10代であろうか。
株屋の、店員で、随分、当てて、
この町に通っていた頃、ではなかろうか。
(千束町の小料理屋とは、
「正ちゃん」、かっこいい、ではないか。)

さて、秋刀魚飯。

これは、実は、白状をすると、秋刀魚飯の方が先にあった。
魚の炊き込みご飯は、鮎飯をこの初夏に何回か作ったが、
この、応用である。秋刀魚でやってみたらどうかと、いうことである。
池波先生の作品の中に、秋刀魚がないかと捜してみたら、
上記の部分があった、のである。
(ただの秋刀魚でもなく、作ろうと思っていた秋刀魚飯、
であったのは、偶然である。)

このため、レシピは、これを読む前に考え、
基本的には、鮎飯と同様に素焼きにし、
しかし、脂が飯に炊き込まれるように、した方がよかろう。
焼いてから、米の上に載せ、炊き込もう。
そんな風に考えていた。

米を研ぎ、酒、しょうゆで水加減をする。
しょうゆも酒も多め。前回の鮎飯同様、濃い目の味付けを目指す。
米は、充分に、水にひたす。

秋刀魚は、筆者、はらわたは、ちょっと苦手のため、
腹を裂き、抜いておく。
二つ切りにし、焼く。
塩はなし。素焼きである。

焼き上がった秋刀魚をそのまま、水にひたした米の上に載せる。


堅めモードで炊飯。

炊き上がり。

一度、飯の上の秋刀魚を上げ、骨を取る。
ことに、腹の骨は丁寧に取るが、小骨は取りきれないので
適当によしとする。
この時、腹側の身は、脂があるので、できるだけ、残す。

針生姜を作る。

そして、秋刀魚をほぐしながら、ともに飯に混ぜ込む。

さてさて、完成である。(もみ海苔は、忘れた。)

文章で、この味が伝えられないのが、まことに、残念である。

はっきりいって、うまい。

まさに、これこそ、堪えられない、うまさ、で、ある。

脂が、飯に染みて、味が濃いのも実に秋刀魚に合っているし、
また、針生姜も欠かせない相性である。
食べ始めたら、とまらない。

なぜ、こんなに旨いものが、
一般的なメニューではないのであろうか。
普通に考えれば、脂が強すぎる、と、いうことか。
しかし、秋刀魚好きの方々、是非、お試し願いたい。

若き池波先生が、かの町で食べた、秋刀魚飯が、
どんな味だったのかは不明である。
だが、断腸亭流、秋刀魚飯、
もちろん、上品なものではないが、久々のヒットである。





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