※京橋店は閉店してしまったようです。2004/11/23
この冬に限ったことではないのかも知れない。
しかし、この冬はおでんが、それも、お多幸のおでんが、特に、食べたくなった。
お多幸はこの日記にも一度登場していた。
99年、今から5年も前。その上、酔狂にも真夏に行っていた。
この当時お多幸の銀座店は、ソニービルの裏の路地にあった。
今は、エルメスが表にあり、お多幸のあった場所は他のビルの建設中である。
現在の銀座お多幸は新橋に近い八丁目。並木通りにある。
シチュエーションとしては、寒い夕方。
会社にいれば六時を待ちかね、
外にいれば、五時半くらいがいいか。
ともかくも、駆けつける。ひょっとすると、並ぶことにもなる。
今年は、銀座店と京橋店へも行った。
銀座店は、なるほどあたらしく、きれいで広い。
以前(ソニービル裏にあった頃)は、木造建築であったような気もする。
入ると、カウンターが左に奥まで続いており、右側に小さなテーブル席が
三、四組。二階もあった。いずれにしても、かなり、狭い印象であった。
カウンターに座っても、隣の人と肩が触れ合う。
しかし、おでん屋。これがお多幸らしかったような気もする。
きれいで広くなった。
おでん屋に行くには一人。もしくは二人までではなかろうか。
江戸前の屋台時代のすし屋ではないが
二つ三つつまんで、さっと帰る。
これがいい。
カウンターに座ると、威勢のいいお兄さん(おじさん?)入ってくる符丁の注文を
次々と赤い(朱色の)皿へ入れていく。
「お酒をお燗で」
おでんは「つみれ、すじ、ちくわぶ」である。
前にも書いているが東京のおでん屋の最初の注文はこれで決まり、だと思う。
お酒。
これも、以前からのままだと思うが、お調子(徳利)ではない。
ちろり、である。
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ちろり【銚舳】
酒の熨(かん)をする道具。銅や真菠(しんちゆう)製の筒形で,取っ手と注ぎ口がついている。
三省堂新辞林
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真鍮製で、竹皮の巻きついた持ち手が付いており、これを湯が沸いている鍋や、やかんの縁に引っ掛け
湯に浸し、そのまま燗を付ける。
お多幸ではガラス製のぐい飲みと、このちろりが出てきて、ちろりからグラスに注いで呑む。
呑みながら、最初の一皿を食べる。
ここの味。
有名だが、真っ黒なつゆ。
コンビニのおでんに馴染んでいる方。地方、特に関西の方はとても驚くだろう。
東京育ちの私でさえ、初めて見たときには驚いたものである。
家庭では、さすがにここまで、しょうゆは入れない。
どちらかというと、魚の煮付けの色である。
今年、食べながら、しみじみと考えてみたのだが、
ここのおでん、用は、煮物なのである。
東京の煮物は魚に限らず、しょうゆで黒くなるまで煮込む。
これでなくては、煮物ではない、というものである。
魚の煮付けのつゆをがぶがぶ飲む人は、さすがの東京人でもいないと思う。
飲むわけではない。濃くてよいのである。
東京でもお多幸以外のおでんの有名な店は
必ず、薄味、だしが美味い、などを売り物にしている。
これは、想像するに、お多幸に限らず、東京の一般的なおでんが、濃かった、のである。
お多幸だけ残ってしまったのではないだろうか。
また、見た目ほど、塩辛くないのも事実である。
みりん、もしくは、砂糖も入っているのではないかと思う。つまり、甘味もある。
しめて、煮物なのである。
次は、大根、豆腐。それに玉子。
よく味の染みた大根はだれしも好きだと思うし、また、玉子も嫌いな人はいないだろう。
私も、好きである。しかし、濃い味に合うものの代表は豆腐であろう。
ここは、焼き豆腐でなく、豆腐である。
これが実に美味い。
辛口の酒に実に、合う。
(お酒をもう1本。)
二合とおでん、六つ。
こんなものでいい。
こんなものがいい。
ついでに、おみやげ。
「おみや」である。
ここの「おみや」は缶に入れてくれるのだが
この缶のデザイン(意匠)が洒落ている、というより、粋、といった方がいいだろう。
茶筒のような形で大と小、二種類。(\2,000と\4,000だったと思う。)
朱色で名前(お多幸)が入っている。
銀座であるから、昔は新橋の芸者さんへ「おみや」にしたのであろうか、、
と、思えてくるようなデザインなのである。
これを買うとつゆは別に容器に入れてくれる。粉のからし付き。
これもお勧めである。
さて、お多幸。
三つ四つ、つまんで、お酒二合。
飛び交う符丁、手際よく、おでんを取って、さっと出す、気合。
数少ない、江戸の冬の呑み方のできる場所ではないだろうか。
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