断腸亭料理日記2023

富山・ますのすし その1

4454号

11月23日(木)夜

さて、なにを食べよう。
今日、思い付いたのは、駅弁。

駅弁というのは、うまいものである。
鶏そぼろののった鶏飯の類も好きだが、
特に、多くは押し寿司だが、すし系のもの。

上野駅に買いに行こう。

上野駅の、改札中に入らなくとも、中央改札外の
ザ・ガーデン自由が丘というところに豊富にある。

なにがよかろう。
柿の葉寿司もよいが、やっぱり、
押し寿司の王道、富山の「ますのすし」。
これにしようか。

帰宅。

量が多いので、1700円也。

開けると、これ。

ご丁寧に竹四本と太い輪ゴムで押さえてある。

取ると、

越中富山名産と富山名物であった舟橋の浮世絵。

開けると、笹できれいにはさまれている。
笹を開き、付いている、フラスチックのナイフで
きれいに切る。

魚も飯もきれいに切れるものである。

ビールを開けて、食べる。

東京者なので、すしというと、無意識にしょうゆをかけて
しまうのだが、押し寿司の類は、しょうゆはいらない。
酢飯にも魚にも十分に味が付いている。
これを知って、最近はかけなくなった。

やはり、ますのすし、うまいもんである。

飯の酸味はさほど強くない。

これ、なにが。なぜうまいのであろうか。
酢だけではないと思うが、酸味を付けた飯に
やはり、塩漬け、酢〆をしたますをのせて、
押して熟成。

ただのせただけではなく、押して熟成。
これもポイントなのであろう。
熟成、押して、置いておく時間はますのすしの場合、
数時間から1日程度。

うまいのだが、日本中にあるが、押し寿司と
いうのは、そもそも、なんであろうか。

今まで、すしの歴史というと、ウィキペディア

を読んで、なんとなくわかった気に、なっていたのだが、
今回、少しちゃんと理解しようと考えた。

実際のところ、きちんとした研究がされているのか
というと、そうでもない、と、いうことがわかってきた。
食い物の歴史というのは、大方こんな感じなものが
実際大多数なのである。
以前に、私も今のつゆで煮込んだおでんがいつ頃生まれた
のかを、調べてみたことがあった。
幕末あたりにできていた、というのが流布しており、
私もそういうものだと思っていた。が、これは、どうも
間違いであることが、わかってきた。
私が調べたのは、明治の東京の新聞記事と広告だが、
明治の初めはまだ、おでんといえば、以前からの
味噌を塗った田楽のおでんなのである。おそらくつゆで
煮込んだおでんが生まれたのは、明治中期以降。
随分新しいのである。

食い物は身近なものなので、あまり記録、文書に残らない。
また、言い伝え、伝承の類が多く、これが信じられて
いることも多い。特に当事者には信じられているが、
実は根拠が乏しい。身贔屓、美化したい、そんな心理も
働いていることも多いのかもしれぬ。
研究家という人もきちんとした裏付けを取らずに、
なんとなく伝承をそういうものと思ってしまっている。
また、逆にやられなくなったことは、当事者でもまったく
忘れ去られていることも多い。フィールドワークなども
しずらいだろう。

そこで、とある先生を発見した。
日比野光敏氏、名古屋大文学部、同大学院出身。
1960年生まれ。
研究スタンスは民俗学に近いよう。
おそらく、すしの研究として学問的に(社会科学として)
筋が通っている方はこの先生くらいかもしれぬ。
まったく存じ上げなかったのは、不勉強の極み。

日比野光敏「だれも語らなかったすしの世界」2016(旭星出版)

(もう随分前の研究なので、その後の変化がある可能性も
あるのだが、今回はここまで。)

この著作にちょうど富山のすしが論じられている部分が
あり、様々なことがわかった。

さて、その前に、そもそも、すしとはなにか。
日比野先生の研究を主にもう一度、かいつまんで
みてみたい。

すしをきちんと定義するのは、意外に難しいのだが、
一応、すしの発生から辿ると、ある程度特定することが
できそうである。

そもそも始まりは、魚の保存のため、炊いたご飯に漬け、
発酵させたもの。
場所は、東南アジア、タイ、ラオス、カンボジア、ミャンマー
といったあたりの内陸部。つまり、川魚。
これが、ナレずし、発酵ずしというものになる。
現代日本に残っているものだと、琵琶湖のふなずしが
代表例であろう。(ふなも奇しくも淡水魚。)

この東南アジアで生まれたものが中国へ伝わり、
朝鮮半島経由ではなく、直接中国から日本に伝わったと。
ではいつ伝わったかというと、これはわかっていないと。
稲作とともにかと思うと、そうでもなく、卑弥呼の
時代あたりではないか、と日比野先生。
(我が国で文献史料が出てくる大和王権成立後には
献上品などとして出てくるようなので、その前、
ということか。)

私など、魚を食べ、米を食べる地域で、自然発生的に
日本でも生まれたのではないか、と思っていたが、
そうでもないよう。

この頃は、ご飯と自然発酵させるだけなので、乳酸発酵、
であったろう。そして、魚のタンパク質が分解され
アミノ酸〜うま味が増えてうまくなる。
漬けたご飯を食べるのか、食べないのか。これは
両方あったよう。発酵が進んだふなずしは食べない。
発酵が浅いナマナレの場合、食べるよう。

日本では長い間、この発酵ずしの形で食べられていたが、
変わり始めたのが、江戸時代前、安土桃山時代あたり。
様々な調味料のようなものを添加して漬けるように
なっていく。いわく糀、酒、酒粕、酢。
これがすしの大きな変化になっていくのである。


つづく

 

 

 

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