断腸亭料理日記2023

鯉のあらい

4370号

7月5日(水)夜

さて、なにを食べよう。

なかなか思い浮かばぬので、吉池に行ってみた。

きてみると、鯉のあらい、が、あった。

鯉のあらい、というのは、どうにも私には
魅力的なもの、で、ある。

まあ、鯉の刺身、ではあるが、、、

酢味噌で食べるが、ほぼ酢味噌の味で、食感だけのもの
じゃないか、といわれれば、そうかもしれぬが、
うまいものである。
特に、夏のもの。

1パック、540円。
まあ、安くはない、が、べら棒でもない。
福岡県産のもちろん、養殖のもの。

これ。

鯉というのは、どこの特産なのであろう。
調べると、伝統的なものなのであろう、やはり
内陸部が多いよう。しかし、各地で養殖されている。

信州も名物にしているのを聞いたことがあった。
飯田だったり、佐久。
琵琶湖のある滋賀県、霞ヶ浦、北浦のある茨城県。
あるいは、福島県。

こんなところが名前が出ているところ。

しかし、実際の農水省の数字(2022年漁業・養殖業生産統計)を
見てみると、なんのことはない、NO1.は茨城県で763t。
No.2は福島県で646t。この二県が二巨頭。
3位は離れて宮崎県155t。4位は長野県99t。5位群馬県78t。
このあたりまで、か。
ちなみに全国の鯉の養殖生産量合計は2027t。
うなぎが、全国合計が19,155t(前出)なので、桁違い。
やはり鯉はマイナーなもの、なのであろう。

今はこんな感じだが、川魚(かわう)というのは、
伝統的にはもっと全国でよく食べられてきたのではなかろうか。
当時から養殖であったろうし、海の漁業に比べれば好不漁の
差がなく、安定していたはずである。

例えば、江戸・東京でも。

私自身、父、祖父以前から江戸・東京生まれだが、
(ルーツは近郊大井町の百姓だが)私が鯉(のあらい)が
好きなのは、どうも代々のもののように思われる。
子供の頃、鯉のあらいは、よく食卓に上っていた。

池波作品にも登場する。
鬼平の文庫21巻

「高萩の捨五郎」。
やはり季節は真夏。平蔵は相模の彦十を連れて市中見回り。
大川の向こう、請地(うけち)村(今の向島)の秋葉大権現の
裏門を出て、風雅な茶店で、鯉のあらいで冷酒(ひやざけ)。
暑い中を歩かされてブースカ言っていた彦十は
“たちまちに相好(そうごう)をくずした。”

広重『江戸高名会亭尽 向島 大七』天保期

実際に、江戸期には[武蔵屋][大七]なんという名前が
残っている。向島の高級料亭では生簀を設け鯉を飼い、
名物にしていた。

鯉以外にも泥鰌。
どぜうもよく食べられていたといってよいのだろう。

子供の頃、どじょうの味噌汁は、よく出た。
まあ、子供が好きなものでもなかったが。

落語「小言念仏」(三代目三遊亭金馬)には
担い売りのどじょうやが売りにきて、鍋に入れて
どじょう汁にするのが描写される。

今も、私には、ご近所[駒形どぜう

は欠かせない。
(そういえば、このところご無沙汰。
行かねば。)

そう。
ちなみに[駒形どぜう]には、鯉のあらいが
いつも品書きにあるし、私はいつも頼む。

むろん、うなぎ蒲焼は、江戸・東京伝統のご馳走。
うなぎも川魚。

また、こんなこともある。
鯉は、瀧登りという言葉もあり、本来おめでたい魚である。
また、栄養を付けるため、妊婦に食べさせるという
ことも言われてきた。

江戸は、目の前に海があり、海の魚がもちろん豊富なところ
であったはずだが、思った以上に、川魚も食べられていた
と考えるのである。
少なくとも比べれば、食べる量、頻度は減ったのでは、と。

ともあれ。
鯉のあらい、どうやって作るのか。
ちょっと調べてみた。

また、例の農水省のページがあった。
これは、福島県の伝統料理として紹介されている。

刺身を冷水で洗うのか、思っていたのだが
左に非ず。

一度、42℃の温水で洗う。
これを、氷水で〆る、と。

現代の低温調理ともちょっと違っているが、
多少、タンパク質に変化をさせる、ということか。

さて。

氷を敷いてた皿に、盛り付け。

冷酒でもよかったが、やっぱりビールを開ける。

酢味噌を付けて、つまむ。

まさに、この蒸し暑い毎日。涼しげなのがよい。

今は、泥くさいものは出回っていない。
白身で淡泊な味だが、独特な香りも微かに感じられる。
そして、コリっとした独特な食感。
白身の海の魚を含めても、他にはこんなものはない。

鯉のあらい、やっぱり、乙で、うまいもんである。

 

 

 

 

※お願い
メッセージ、コメントはFacebook へ節度を持ってお願いいたします。
匿名でのメールはお断りいたします。
また、プロフィール非公開の場合、バックグラウンドなど簡単な自己紹介を
お願いいたしております。なき場合のコメントはできません。

 

 

 

断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5|

2004 リスト6 |2004 リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10 |

2004 リスト11 | 2004 リスト12 |2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005 リスト15

2005 リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20 |

2005 リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006 6月

2006 7月 | 2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006 12月

2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |

2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月

2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月

2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |

2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |

2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |

2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |

2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |

2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |

2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |

2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |

2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月

2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |

2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |

2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 | 2015 11月 |

2015 12月 | 2016 1月 | 2016 2月 | 2016 3月 | 2016 4月 | 2016 5月 | 2016 6月 |

2016 7月 | 2016 8月 | 2016 9月 | 2016 10月 | 2016 11月 | 2016 12月 | 2017 1月 |

2017 2月 | 2017 3月 | 2017 4月 | 2017 5月 | 2017 6月 | 2017 7月 | 2017 8月 | 2017 9月 |

2017 10月 | 2017 11月 | 2017 12月 | 2018 1月|2018 2月| 2018 3月|2018 4月 |

2018 5月 | 2018 6月| 2018 7月| 2018 8月| 2018 9月| 2018 10月| 2018 11月| 2018 12月|

2019 1月| 2019 2月| 2019 3月 | 2019 4月| 2019 5月 | 2019 6月 | 2019 7月| 2019 8月

2019 9月 | 2019 10月 | 2019 11月 | 2019 12月 | 2020 1月 | 2020 2月 | 2020 3月 |

2020 4月 | 2020 5月 | 2020 6月 | 2020 7月 | 2020 8月 | 2020 9月 | 2020 10月 | 2020 11月 |

2020 12月 | 2021 1月 | 2021 2月 | 2021 3月 | 2021 4月 | 2021 5月 | 2021 6月 | 2021 7月

2021 8月 | 2021 9月 | 2021 10月 | 2021 11月 | 2021 12月 | 2022 1月 | 2022 2月 | 2022 3月 |

2022 4月 | 2022 5月 | 2022 6月 | 2022 7月 | 2022 8月 | 2022 9月 | 2022 10月 |

2022 11月 | 2022 12月 | 2023 1月 | 2023 2月 | 2023 3月 | 2023 4月 | 2023 5月 |

2023 6月 | 2023 7月 |

BACK | NEXT

(C)DANCHOUTEI 2023