断腸亭料理日記2022

浅草・弁天山美家古寿司 その2

4170号

引き続き、浅草弁天山[美家古寿司]。

昨日は、つまみ二品、にぎりで今だけのすみいかの
子供、新いか、鯛の昆布〆まで。

にぎりの頼む順番は、いかや白身などの淡泊なもの、
光物、まぐろなど赤身、貝類、甘いもの、海苔巻。
私はこんな順番を基本にしている。

で、次は、光物。

まずは、小肌から。

開いた一匹をにぎり一つににぎっている。
まだ、小さいものである。
毎度書いているが、小肌は美しい。
そして、身が薄く柔らかい。

小肌も夏前に子供が生まれ、夏の小さなものを
新子(しんこ)といって珍重する。

この大きさであれば新子とはもういわなかろう。
二匹でにぎり一つ分程度のまでが新子と呼ぶのが
適切か。

小肌という魚は成長によって名前が変わる。
魚としての名前は鮗(コノシロ)。
新子はまあ子供のことで、どじょうも新子どじょうと
いうが一般名称といってもよかろう。
次が小肌、そしてなかずみ、鮗(このしろ)となる。
鮨種にするのは、なかずみあたりまでだが、
小肌までがよいだろう。
夏に生まれて、翌年春あたりまでには10cmを越え、
夏前にはなかずみというようになる。
大きくなると、大味で身が硬くなってもう一つ。

どうも私達は初物(はつもの)というものを
無暗に有難がる傾向がある。
まあ、これは江戸の頃からで、持って生まれた性向
のようである。
果物、野菜、魚、なんでも人より早く食べたいと
法外な大金を出す者が出てくる。
江戸町奉行所は、初物に大金を出すことを禁じても
いるほど。

7月頃にはその新子が出始めるが、一匹がめだかほどの
大きさ。さばいて〆る作業もピンセットと虫メガネ
でも使わなければいけないと思われるほど。
これを数匹使ってにぎったものを出す鮨やもある。
小さい方が小肌はうまいのは確かだが、こうなると
もはや酢の味しかしない。
こんなものを有難がるのは、まったく理解に苦しむ。

なんて話を若親方としながら、
次は鯵。

酢洗いといって、酢で洗った程度か、、、
もう少し〆てあるかもしれない。
このくらいがよいかもしれない。うまい。

そして、きす。

〆たきす。
きすといえば、江戸前の魚だが天ぷらの種で、
一般の鮨やにはまずないが、江戸前を看板に
しているところには、置いている。
私は、必ずもらう。うまいもんである。
白身で火を通すと淡泊でうまいが、独特の香りが
あるので、〆るようになったのであろう。

かんぱち。

白身に入れてもよいが、ここでもらった。
ぶりの類なので、いい位置ではなかろうか。
ぶりよりも、締まった身でよい脂。

まぐろヅケ。

まぐろヅケは赤身が普通だが、ここには中とろも
いつもある。中とろが、うまい。
脂があるとヅケには向かなそうだが、技があるのであろう。

蒸し鮑(あわび)。

貝類全般、私は別段きらいではないのだが、
プライオリティーとしては、魚よりも下がってしまう。
それでほぼ普段は頼まないのだが、目の前にあったので
久しぶりにもらってみた。
鮑は生をにぎる方が普通かもしれぬが、江戸前鮨では
昔から火を通した蒸し鮑。
これ、実にうまい、のである。
火を通すと堅そうだが、柔らか。
そして、滋味といってよいじんわりとしたうま味。

そして、海老。

なかなか立派な大きさ。
天ぷらやだと、もう少し小さいか。
さいまき海老だとともいうが、ゆでた車海老。
ここでは甘酢に漬けてほんのり味が付いている。

さて、最後。

海苔巻は、干瓢わさび入りがいつもだが、
今日は鉄火巻。

ちょっと脂のあるところを巻いてくれた。
やっぱりうまい。

まぐろを巻いた鉄火巻というのは、
いつ頃からなのであろうか。
まぐろを鮨として食べ始めたのはヅケが発明された
幕末といわれており、巻き鮨にしたのもそれ以降、
おそらく明治に入ってからなのであろう。

それ以前、鉄火鮨(巻?)というものがあったようで、
文献にもあるよう。出典は「皇都午睡」で嘉永3年(1850年)
に出版されているようなので、それでも幕末。
これはまぐろではなく、なんと芝海老のおぼろ。
ウィキペディア

おぼろにわさびを入れて細巻。赤い色からのよう。
これが後、明治にまぐろに変わったということなのか。

さて、私はここでおおかたお仕舞なのだが、
内儀さんはやっぱり、玉子。

おぼろとともに、出してくれた。

おぼろはたまにここでも巻いてくれることがあるが、
そういう意味では、由緒正しいものであったのか。

ともあれ。

うまかった。二人で勘定は22,880円。

毎度、ご馳走様です。


弁天山美家古寿司

台東区浅草2-1-16
03-3844-0034

 


※と、いうことで明日から断腸亭料理日記、
若干の夏休みといたします。

 

 

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