断腸亭料理日記2022
4007号
1月4日(火)夕
妙なタイトルだが、引き続き、1/4。
3時半頃、国立の芝居が跳ねた。
しばし、タクシーを待つ。
神田須田町で、そば、かな!?。
午前中はなにか多少暖かいように感じたが、
芝居の間に、風も出てかなり寒い。
国立劇場前のタクシー乗り場の吹きっさらし。
15分は待ったろうか、無事タクシーに乗って、
内濠通り、靖国通りから、神田須田町。
そば、であるが、靖国通りから見える、
[まつや]は長い列。
[やぶ]にしようか。席数は[やぶそば]の方が多そう。
また、広い。
路地を曲がって、さらに曲がって[かんだやぶそば]。
まあ、もちろんこちらも列。
しょうがない、待つしかあるまい。
引き続き、風が強い。
入れ替わりはあるが、呑んでいる人もいる。
どのくらいであろうか、結局ここでも
15分、20分は待ったか。
入れて、小上がりへ。
寒いが、最初はビール。
エビスの大瓶。
つまみは、天ぬき!、、、
は、ない、とお姐さん。
正月で、品書きにないものは、出さない
ということのよう。
では、天だね。
天だね、とは、天ぷらそばの種、ということで
天ぷらのみ、のこと。
それから、軽いもので、板わさ。
今日が、今年最初の営業のよう。
その上、今日は世の中は仕事初めで、場所柄もあろう、
神田明神への初詣後の、サラリーマンも多いよう。
ビールがきて、天だね。
かき揚げの天ぷらの上に、ゆでた三つ葉とゆず。
つゆに、おろし。
ここの天ぷらそばは、芝海老のかき揚げなので、
天ぷらのみだと、こういうことになる。
板わさ。
お姐さん達も、混乱状態のよう。
そうそう、正月、ここへきたらこれ。
店の奥に飾られている。
席を立って、写真を撮った。
たくさんの鏡餅、お供え。
中央に大きなものがあり、まわりに小さなもの。
おわかりになろうか、それぞれ、名前が入っている。
[並木藪蕎麦][浜町藪蕎麦]行ったことのある
ところもあるし、ないところもある。
東京だけでなく、地方もある。それも皆、藪蕎麦。
毎年、ここにこんな風に、各地の藪蕎麦の名前入りの
鏡餅が飾られているのである。
ここは藪蕎麦のいわば総本家で、各藪蕎麦は
暖簾分けということになろう。
以下、店に聞いたわけではないので、想像と考察である。
これ[かんだやぶ]と、各藪蕎麦分家の付き合い、
なのであろう。正月に双方で贈り合う、のか。
以前には、こういう習慣が藪蕎麦だけでなく
一般にあったのでは、というのが、私の仮説
なのである。
お正月なので、多少長くなるが、お付き合いを。
この鏡餅件、には想像だけではなく、ちょっとした
証拠があるのである。
落語「文七元結」それも圓生師(六代目)の録音で、
親戚付き合いに「お供え、のやり取りをする」という
セリフがあるのである。
“お供え”は、今、一般には仏様、神様に備える
食物などを指すが、ここでは神仏に供えるお供え餅、
特に正月の鏡餅のことでよいと思う。
圓生師の「お供えのやりとり」、伝聞である可能性は
否定できないが、民俗学でいう生活習慣の聞き書きに
あたるものといってよいのではないかと考えている。
落語好きの方はご存知であろう。「文七元結」の
最後の場面、左官の長兵衛の長屋へ、訪ねてきた
べっ甲問屋の主人、文七主従と長兵衛のやりとり。
主人が長兵衛と親戚付き合いをしたいという。
長兵衛は「いいのかい?、金を借りに行くよ。
お供えだって、どんな大きいのをよこすか
知らねえが、あっしんとこじゃ、こんな小っちゃな
ものしか持ってけないよ。」と。
つまり、親戚付き合い、にお供え・鏡餅のやり取り、が
ある、ということである。
同世代の志ん生師の録音でもあったと思い、数本
確認をしてみたのだが、見つからなかった。
このセリフの音が残っているのは圓生師だけ
かもしれぬ。また、以降の世代、談志家元、志ん朝師
なども調べたが、こんなセリフはない。
人情噺「文七元結」は三遊亭圓朝、明治22年(1889年)の作
といわれている。当時圓朝は寄席に出ていなかったので
速記版の新聞連載で文字に残ったものである。
圓朝は、天保10年(1839年)の生まれ、明治33年
(1900年)61歳で亡くなっている。「文七元結」は
晩年に近い頃である。
まず、手元にある文献資料からみてみよう。
一つは、前記の「圓朝全集」(角川)に入っているもの。
最初の新聞掲載だと思われる。
だが、ここには“お供え”の件(くだり)は、ない。
圓朝後のもの。「口演速記 明治大正落語集成六巻」(講談社)。
明治40年(文芸倶楽部)初代三遊亭円右。最初の圓朝速記の
20年後。初代円右は圓朝直門。だがここにも“お供え”は
ない。
はて、はて?。
つづく
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