断腸亭料理日記2022
4027号
2月5日(土)夜
引き続き、2/7。
[ぽんた本家]から戻り、甘いもの。
いつも、なんらか家には甘いものは置いてあるのだが、
今日は、昨日買ってきた、くず餅。
亀戸天神の[船橋屋]のもの。
浅草松屋に入っている。
これ。
開けると、こんな感じ。
黒蜜、きな粉ももちろん付いている。
以前は、大きいものしかなかったと思うが、
最近は、こんな一食分もあった。
実は、少し前からくず餅を食べようと思っていたのである。
最近、話題らしい。
みつ豆、あんみつというのは、内儀(かみ)さんが好きで
よく上野[みはし]のものを買ってくるので、
たまに食べるが、くず餅というのはとんとご無沙汰
であった。
くず餅というと、子供の頃はかなりよく食べた。
叔母が、池上本門寺だったり、川崎大師へ行ったので
と、持ってきてくれたり、あるいは、深大寺などでも
売っていたか、親も買っていたと思われる。
こういった、神社仏閣の茶店のようなところで売っていた。
また、百貨店はもろん、大きなスーパーにも入っていた
のではなかったか。
子供なので、チョコレートの方がうまい、と思ったのは
偽らざるところだが、くず餅も好物というほどではないが、
かなり馴染み深い甘いお菓子で、あった。
あんみつなどもそうだが、きな粉と黒蜜の
組み合わせというのは、定番であるが、うまいもの、
おそらく黄金であろう。
渋くて熱いお茶を淹れ、開けて、つまむ。
スプーンが付ているが、木というのは、
なかなか味があるではないか。
まあ、食べても別段変わったものではない。
知っているくず餅の味。
いや、くず餅自体には、あまり味らしい味というのは
ないのであろう。
黒蜜ときな粉の味。
まあ、こういうもの。
最近話題。
特に、この[船橋屋]さんががんばっているよう。
広尾だったり表参道などにカフェを開き、
くず餅を使ったプリンなど若い人にも受けるような
見せ方もされているよう。
また、積極的にPRもされている。
私も、なにかのTVで視たが、発酵食品である、と。
そもそも、くず餅というのは、なにか。
これすら知らなかった。
くず餅は、くず粉から作るのかと思うと、そうでも
ないらしい。
本来、吉野葛といった、植物の葛の根から取るのが
葛粉でこれから作るのが、葛餅で、近畿など西日本では
一般的なものであるらしい。おそらく私など、見たことも
食べたこともないと思われる。
これに対して、東京のくず餅は、江戸後期から
食べられ始めたという。
小麦粉を水にさらしてグルテンを抜く。
このグルテンは、麩、などにするのであろう。
残った、小麦粉デンプンを1年以上置いて発酵させる。
そして、これを蒸したものが東京のくず餅らしい。
この発酵は、くず餅だけの乳酸菌によるものであることを
[船橋屋]は明らかにした。
そして、このくず餅乳酸菌自体も、健康食品として
販売している。
同社HPによれば、江戸後期、江戸周辺、葛飾地方の
農家などで、こうした製法でくず餅として食べられる
ようになったものらしい。
そして、現存しているくず餅やとしては、最古のよう。
文化2年(1806年)、今の亀戸天神門前で商売を始め、
以来、200年超。
文化2年は大政奉還までまだ60年もある。
文化文政期の26年間は世の中も比較的安定し、
浮世絵や滑稽本など、町人文化の花が咲いた。
歌舞伎では東海道四谷怪談の四代目鶴屋南北の時代。
江戸落語もこの頃生まれ、またにぎりの鮨も
文政期に誕生している。うなぎ蒲焼も既に食べられており、
我々が思い描く最も江戸らしい頃といってもよい
かもしれない。ただ、文化文政期に開店して現存する
飲食店は幕末になるともう少し出てくるが、うなぎ
蒲焼の駒形[前川]あたりしか見当たらず、まだ
数少ないよう。
現、ご主人で8代目。ちょいと調べると、社長さんは
1964年生まれで私などと同年代。
この方が、がんばっておられるのであろう。
暖簾を守りかつ、生まれ変わらせる、というのは、
並大抵のことではないはず。
小麦粉からグルテンを取り出す、というのは
麩を作るのに必ず行われる工程であろう。
麩というのは、日本全国に昔からある。
つまり日本中で行われ、今もしているのであろう。
この分けられたデンプンの使い道として、江戸後期の
江戸近郊で、くず餅が生まれた、というのは、
おもしろい。
また、固有の乳酸菌で自然発酵であった、と。
身体(お腹?)にもよい自然食品ということ。
現代的ではないか。
黒蜜もきな粉も自然のもの。
黒蜜は、黒糖から作った蜜であるし、きな粉は大豆そのもの。
[船橋屋]ではむろんどちらも吟味したものとのこと。
くず餅。
素朴で、シンプル。
江戸東京固有の庶民の伝統菓子。
思い出して、食べてみよう。
断腸亭としては[船橋屋]さん、
応援したくなる。
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