断腸亭料理日記2019
引き続き、志ん生師「三軒長屋」。
枝葉の部分がおもしろく、残ってしまった。
ただ、もう一つ、疑問がある。
枝葉がおもしろいのはいいが、ストーリーだけを取り出しても
一席の噺として成立するのか、おそらくするだろうと、書いた。
なぜこの形にならなかったのか。
鳶頭と先生が入れ替わるという意表を突く下げにつながるギミックの
部分である。(これが原話。)
成立するのであろうが、これは一度聞けばわかってしまう。
落語は繰り返し聞くことに耐えられるものでなくてはいけない。
獅子舞の件(くだり)などを省いてしまうと、この繰り返しに
耐えられなかったからではなかろうか。
そんなことで、古い形の、ダラダラ長くなる、という形が残った。
こういうことではなかろうか。
さて、そんな「三軒長屋」。
もちろん、私など演じようと考えたことすらないが、
談志家元も、話していたと思うが、やたら疲れるという。
そうであろう。
鳶頭一派の部分、特に、聞かせどころの、獅子舞の部分。
言いよどみ、言い間違いの多い、志ん生師。ではあるが、まったく
そんなことがない。そう。この人、ホントはできるのである。
やらなかっただけ、なのである。(困った人である。もちろん理由は
あろうが。)
早さに加え、小気味よいリズムが不可欠。
言いよどみ、間違いなどは絶対に許されない。
(でなければ作品が崩れてしまう。古典芸能の厳しさである。)
そして、長い。
落語などでよくいう、言い立て。
「寿限無」の「寿限無、寿限無、五光のすりきれ・・・」
は最も簡単な例だが「大工調べ」の棟梁の啖呵。
「なにぉ〜、あったりめえじゃねえか、目も鼻も口もねえ、
のっぺら棒みてえな野郎だから丸たん棒っつたんだ。・・・」。
これは私も覚えたが、江戸っ子の啖呵なので早口でなければ
いけない上に、啖呵らしく、粋で凛々(りり)しくなくては
いけない。むろん、ちゃんと言葉として聞き取れなければいけない。
まあ、演じる場合は、青筋を立てて、息も絶え絶え。ほぼ酸欠状態。
「三軒長屋」は談志家元は、頭がボーっとしてくる、と
言っていたが、こういうことなのではなかろうか。
テンポが緩くてもいい部分もあるのだが、比率とすれば、
早いところの方が多い。そして、全体が1時間。
とにかく、たいへんな噺、なのである。
録音の残っている落語家は、志ん生師。
円生師(6代目)のものもある。わるくはないが、もう一つ。
円生師(6代目)の人(ニン)ではないのかもしれぬ。
三遊亭金馬(3代目・先代)が、よい。
禿げ頭で出っ歯の金馬である。
この人、ダラダラ喋っていることの方が多いように聞こえるが
こういうメリハリがあって、リズム感命のものも、実は人(ニン)
なのである。
談志家元は、自分で言っている通り、実際にはあまり演っていない
のではなかろうか。「ひとり会」を私は追いかけていたが、生では
聞いた記憶がない。アーカイブを観ると、やはり多少のアラは見える。
志ん朝師のものもある。
流石に、うまい。口調として、志ん朝師お得意のあのリズミカルな
口調である。よく演じている。ただ、まあ、これは私自身の好み
ではあるが、もう一つ。(志ん朝師、一度ちゃんと考察をした方が
よいと思うが、この人、上手すぎた、のではなかろうか。
上手すぎて、噺によって、強弱というのか、色があまりないように
思うのである。優等生的というのであろうか。)
小さん師(5代目)のものもあるが、やはりというべきか、獅子舞は
カットしている。テンポも緩い。剣術の先生のところはさすがに
うまいが。
存命の落語家だと、小三治師。音になっているのは、若い頃のものか、
かなりイマイチ。鳶の者が与太郎に聞こえてしまう。
志の輔師のものもある。この人も、やはりというべきか、獅子舞は
飛ばしている。この点では、この噺が本当の意味でできている、
とは言い難い(小さん師(5代目)もそうなると思う。)。ただ、
この人の人物描写、演出は天才的である。無難に1時間ものを仕上げて
いる。
市馬会長のTBSのものがあるようだが、聞けていない。どんなものなのか。
談春師はあるようだが、志らく師は演っていないのではなかろうか。
いずれにしても、ハードルの高い噺である。
だがやはり、獅子舞の部分は、滅んでいくのかもしれぬ。
「三軒長屋」、志ん生師もこんなところでよかろうか。
長い噺ばかり書いてきたが最後に軽いのもちょっとだけ書こう。
私が好きなのは「替り目」。この噺、まさに、師の地、かもしれぬ。
「付き馬」。「ちょぃっと、煙草買ってくるから」というのが、
最高に、うまいし、おかしい。大好きである。
ちょっと長いが「子別れ」。「上」で「お前の下駄は、減っちゃって
駒下駄じゃなくて、コマビタだね。これ以上減るとお前の足が減る」。
「昨日、今日、でき星の紙屑やじゃねえ。先祖代々の紙屑やだ」。
そして「下」の「八百屋!」。これが志ん生のセンスである。
大河「いだてん」では内儀(かみ)さんをもらって、大震災。
地震直後、酒やをまわって、呑みまくっていた。
志ん生師は戦後にならないと、うだつは上がらない。
しばらくは暗い感じなのかもしれぬ。
前にも書いたが、松尾スズキ氏演じる橘家円喬(4代目)の「富久」。
下手な落語もどきはやめてもらいたい。
たけし氏も、やめてほしい。
落語を知っているというのと、落語が喋れるというのはまるっきり
違うことである。
落語のリズムとメロディーができていない人の噺を聞かされているのは、
音痴の唄を聞かされているのと同じ。不快である。
たけし氏は、おそらく知らないはずはない。浅草出身の漫才師で芸人。
落語のリズムはわかっているが、あえて演らないのではなかろうか。
つまり、隣の庭にトウシロウが入ってはいけない、という配慮で
はないか。オイラが落語を演る場合はあくまで余興だ、と。
よくタレント、俳優等が落語の演技、真似を余興、あるいは作品として
することがあるが、あれも然り。あういうものを褒める風潮まであると
思う。褒めてもよく覚えましたね、程度で、ちゃんと言った方がよい。
ヘタなものはヘタ。
私は、習い始めにまず、師匠志らく師から言われた。素人にはわからない
のである。私もそれ以前はまったく気が付いていなかった。
落語のリズムとメロディー。落語は伝統芸能でもある。
そんな甘いものではないのである。
余興ではなく、ドラマやアニメ、映画の作品として作る場合は製作者の
問題。落語の作品を作るのであれば、そのくらい勉強してほしい。
指導をする落語家自身が知らない、可能性もある。(意外に多いと思う。)
わかっているのであれば、ちゃんと言うべきである。
(わかっちゃうと、皆うまくなっちゃって、本職が困る?か。)
閑話休題。
次は、八代目桂文楽師。
つづく
断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5
|
2004 リスト6
|2004
リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10
|
2004
リスト11 | 2004 リスト12
|2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005
リスト15
2005
リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20
|
2005
リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006
6月
2006 7月 |
2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006
12月
2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |
2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月
2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月
2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |
2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |
2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |
2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |
2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |
2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |
2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |
2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |
2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月
2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |
2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |
2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 | 2015 11月 |
2015 12月 | 2016 1月 | 2016 2月 | 2016 3月 | 2016 4月 | 2016 5月 | 2016 6月 |
2016 7月 | 2016 8月 | 2016 9月 | 2016 10月 | 2016 11月 | 2016 12月 | 2017
1月 |
2017 2月 |
2017 3月
| 2017 4月 | 2017
5月 | 2017 6月 | 2017
7月 | 2017 8月 | 2017
9月 |
2017 10月 | 2017 11月 | 2017 12月 | 2018 1月|2018 2月| 2018 3月|2018 4月 |
2018 5月 |
2018 6月|
2018 7月|
2018 8月|
2018 9月|
2018 10月|
2018 11月|
2018 12月|
(C)DANCHOUTEI 2019