断腸亭料理日記2019

断腸亭落語案内 その65 金原亭馬生 笠碁

引き続き、十代目金原亭馬生「笠碁」。

三年前[ミノヤ]の主人が暮れになって、金を借りにきて、
喜んで貸した。

あーたも喜んだね。
これ以上ないというくらい喜んだ。
わかってますね。

助かりました。あの時あの金がなかったら、今の店はおそらくなかった。

そうでしょうねー。
それだけのお金だった。ね、、、、、で、、、
これ、、、、、一目待って、、、、

その三年前の話を聞く前だったら、待ったかもしれません。
それを聞いて待てなくなりました。

え?、そりゃ、どういうわけです!?。
じゃ、言いましょう。
あの時、あなた、なんて言いました。
二十日正月(はつかしょうがつ)までには必ず返します。
目途がございますと。

二十日正月にあなたは来た。
返しましたか?。
返さなかったでしょう。

どうしてもできません。
二月までお待ち願います、と。
その時に、あたしが待てないと言いましたか?。
それに引き換えて、なんですこんな石の一つくらい、
待てないわけがないでしょう!。

なんか、話が違ってきましたね。
ですが、ちゃんと付けるものを付けて、お返しいたしました。

当たり前でしょう。
返すのは。
返さなきゃ、泥棒でしょ。

泥棒?!。
泥棒とはなんです!。
そりゃーね、お宅には世話になってます。
ですから、暮れやなんかの、大掃除にも家の若い衆を
こっちへ寄こします。
家の若い衆をね、あーたは一日中こき使って、蕎麦一杯
食わせるわけじゃなく、小遣いをやるわけでもなく、
あんなケチな旦那はいないって。

ケチ?!。
ケチとはなんです。
いいですか?!、あなたもご商店の主だ、人の家へ知らない
若い衆が来て、役に立つと思いますか?。
邪魔なんです!あんなものは。

邪魔?!。
言葉は謹んで頂きたいですね。
人の厚意で、手伝いに来ているのに、それを邪魔とはなんです?!。
あたしがこうやって碁を打ちにくる。
これだって、あーたが退屈してるだろうなーと思うからきてるんです。
こんなヘボな碁の相手を。

ヘボ?!。
あたしはね、他のことは我慢できんですよ。
ヘボと言われるだけは我慢できない。
あたしだって、忙しいんです。
あーたが来るからしょうがなく碁の相手をしてるんです。
やめりゃいいんです。こんなもの。
(石を放り出す仕草。)
帰っていただきましょう。

ええ、帰ります。

二度と来ていただきたくありませんな。

え〜〜〜、来ませんとも!。
こんなヘボな家。

ヘボとはなんだ!。
二度と来るな!。(怒鳴る。)
グゥ〜〜〜!(なんだか、わからない雄たけび。)

これで、お仕舞んなるのかと思うと、そうでない
ところが、おもしろい。

それから、三日ばかり、しょぼしょぼと雨が続く。
昔の、大店の旦那なんて、なんにもすることがなくなってしまう。

(場面は[ミノヤ]の隠居所。
 [ミノヤ]は代を譲っているのか、お内儀(婆)さんと二人。)

よく降るね。

(煙草をのんだり、お茶を飲んだり。)

空によくこれだけ水がありますね。
え?退屈でしょ?。
忙しそうに見えますか?。
え?、碁会所?。
碁会所なんか行って、どうすんですよ?。
相手なんかいませんよ!。

みんな強すぎんです!。
あたしの相手はあいつしかいないんです。

よく我慢してられんねー。

いや、わかってるんだよ。
マテ、って時に、ポンと待ちゃよかったんだよ。
待ったって勝てたんだよ。
そうだ、あそこの家に、煙草入れ、忘れてきた。
取ってこよう。
あんなヘボな家に置いておくと、煙草入れがヘボんなる。

若い衆に?
いいんだよ。お前はすぐに若い衆を使おうとする。
私は身体があいてるから、あたしが取ってきますよ。
でー、退屈をしていたら、一つ、、。

およしなさいって!、そいでもって、ヘンテコんなちゃったんだから。

いー、わかった。やらない、やらないよ。

あー、その傘だめなの。私の。
これからお使いに出ますから。

たく、お前は。
あ!。
(壁に掛かった、被り笠(菅笠?)に気が付く。)
これ、去年富士山登った時の笠。
こんなもんでも、こうすりゃ、
(被って、手と袖を前で合わせて身体を小さくする。)

じゃ、行ってくるよ。

んな、ヘンな恰好して行かなくたっていいじゃない。
およしなさいよ。

いいよ、行ってくるよ。

 

つづく

 

 

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