断腸亭料理日記2019
引き続き、三代目春風亭柳好師「野ざらし」。
清「いずこの方か知れないが、野へさらされて浮かばれまいと、
そこであたしが回向をしてやったねー。」
八「えーこう、詰まらねえことやりゃあがったなー。」
清「いや、手向(たむ)けをしたんだよ。」
八「あー、狸がどうした。?」
清「なぜそう話しがわからないんだよ。
野を肥やす 骨に形見の隅田川
盛者必滅(じょうしゃひつめつ)、会者定離(えしゃじょうり)
南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)、南無阿弥陀仏(なむむだぶつ)と
腰に残った瓢(ふくべ)の酒、骨い(へ)掛けると気のせいか、
骨がぽーっと赤くなったので、あー、よい功徳をしたと、
家ぃ帰って、寝酒を呑んで、横になった真夜中。
目が覚めたが、どーしても寝ることができない。
するとねー。
どこで打ち出す鐘か知れないが、陰に、」
八「おっと!。
ちょっと待ってください、ちょいと。
それ、こもったんでしょ。」
清「そうだよ。」
八「陰に、ってぇと、きっとこもらせてやがる。
もう、こもる時分だと思ってたんだ。
こもりそこなちゃっただろー。
ざまー見やがれ。」
清「なーにぉ、下らねえこといって。」
八「ぼーん、ときましたか。」
清「うん。」
八「上野の鐘は、銀が入ってるから音がいいや。
コ〜〜〜ン。
芝の鐘は海へしぶくから、さわりがつくね〜、
グワン、ワン、ワン、ワ〜〜〜ン〜〜〜〜。
大きな寺の鐘、割れたような音がすらぁ、
ゴ〜ワン、ゴ〜ワン、ゴ〜〜〜〜〜ワン。」
清「うるさいよ!。」
八「半鐘の鐘が、ジャンジャン〜〜〜〜
鉄道馬車の鐘がカンカンカンカァン〜〜〜〜
(唄)
え〜、ただぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
鐘がカーン、カーン、ポーン、ポーン、
叩いて仏になるならば、時計やのまわりはあらかた仏にぃ
なる〜〜〜〜〜〜〜だろぅ〜〜〜〜〜。
ってな知ってるかぃ!。」
清「そ〜んなこと知りゃぁしないよ。」
八「なんです?」
清「手前、向島からまいりました。
結構な句をいただいて、浮かぶことができました。
ご恩返しと。
あたしの肩をもんでいたのは、ハっつあん、夕べのはこれだぁ〜。」
(両手を前に出して幽霊の恰好。)
八「幽ですかぁ〜?」
清「なに〜?」
八「テキかい?」
清「なにが?。」
八「幽テキかい?。」
清「ものを切れ切れにいう奴があるかー。」
八「きれいなテキですね〜。
あんななら、怖くないんです〜。
じゃー、向島行って、功徳しますかぁ〜。
なーんだ。あんな、女くるんなら早く知らしてくれりゃいいのに
一人で、功徳してらぁ〜。こすいよ〜。ひっかくぞ〜。」
清「なにをひっかくんだよ〜。」
八「お安い御用だ。この釣り竿、、。」
清「こらこら。
そう、つない(ぎ)竿、ガラガラやって。」
八「ケチケチすんなぃ。借りてくよ!。」
ってんで、釣り竿肩に、酒ゃへ行って、いくらかの酒を腰ぃぶる下げて
来てみると、土手下へ、こう、ず〜っと釣り師が出ておりますんで。
八「いるね。
今年ぁ、こりゃ、年寄が色気付きゃがったぃ。
随分早くから、こりゃぁ、功徳に来てんね。
驚いたな。油断も隙もできねえ。
こんちはー!。
んちは〜!。
なんだいそこは?
新造かぁ〜?、年増かぁ〜?なんだ?。
は〜?へ〜?、は、は、はぁ〜〜?」
(土手の上と下のやり取りになる。下の釣り師は竿を構える。
複数の演出。)
A「なんです?あれ。」
(上を見上げて、隣を見る。)
B「え?」
A「あれ。」
B「なんです、あれ。」
A「わかりませんよー!。」
八「ごめんよ〜〜!あいだ行くよぉ〜!
(土手を降りてくる。)
(唄)
ちゃちゃ〜ん、ちゃかちゃ、ちゃらちゃ。
ちゃちゃちゃ、ちゃぁんちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃぁんちゃ、
どいつ(て)くれ、どいつくれ、どいつくれ〜!。
後からきて先ぃ釣っちゃうんだ。驚くなぁ〜!。
(八五郎、唄、とともに、竿を回しながら巻き付いた糸を
外す仕草。)
あたしゃぁ、年増がぁ、えぇえ、いんですぅ〜、う〜〜〜
よ〜〜〜〜へぇ〜へぇ〜へぇ〜〜〜〜。」
A「たいへんな人がきちゃったぃ。
釣りをしてんだか、湯へ入(へぇ)ってるんだかわかんねー。
(八五郎、糸を川へ投げる仕草。)
八「え、っこしょ(どっこいしょ)っつくらぁ〜。
あ〜〜う〜〜、、、、」
A「唸ってるよ、おい。
えさぁ付けないよ、あの人。
あーた、どーでもいいですけど、えさーついてないですが。」
八「大きな、お世話だ。
こうやっつぅ(て)るうちに、鐘がボンっつくらぁ〜
(唄、サイサイ節の節)
鐘が ボンと鳴ぁ〜ぁりゃ 上げ潮ぉ南さぁ〜ぇ
烏が ぱっと出ぇ〜て こりゃさのさ えぇ〜
骨があ〜〜る さ〜いさい
ちゃちゃかちゃぁ〜ん」
A「弱ったなぁ〜!
上げっ端でそんなにやって、、」
八「なにぉ?
魚がどっか行っちまう?
べらんめい、魚に耳?、耳がある?
ほ〜、見すつ(せて)くれ。
初耳だ。魚の耳を見せろぃ!。
(再び唄、サイサイ節)
そのまた骨にとさぁ〜 酒をば掛けりゃさ〜
烏がパッと出ぇ〜て こりゃさのさぁ〜
骨が べべぇ〜着て こりゃさのさ えぇ〜
礼にくぅるさ〜いさい
ちゃ、ちゃか、ちゃん、ちゃん
(構えた竿を上下し、前の水面をバシャバシャ叩く仕草。)
A「そー、かき回っしちゃちゃ。」
八「かき回しちゃ、、?
かき回すってなぁ、こうやるんだ。」
(竿を逆手に持って、文字通りぐるぐるとかき回す。)
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