断腸亭料理日記2017

根岸・笹乃雪の豆腐で

あんかけ豆腐 その1

寒中お見舞い申し上げます。

寒い日が続いております。

インフルエンザも流行っているよう。

皆様にはお身体ご自愛なされますよう、

お願い申し上げます。

断腸亭


1月30日(火)夜

寒い、寒い。

鍋料理ももう一つ。

簡単に湯豆腐。

でもよいのだが、、、、湯豆腐ならば、
あんかけ豆腐はどうであろうか。

こんなものも一応のところ、池波レシピ。

温かくてよいかもしれぬ。
だが、どうせなら、ちょいとよい豆腐でやってみたい。

よい豆腐というと、私は、根岸の[笹乃雪]

久しぶりだが、調達してみるか。
[笹乃雪]というのは以前からなん回か書いているが、
ご存知ではない方も多いかもしれぬ。

創業が元禄時代という東京でもおそらく最も古い
料理やである。

根岸というのは、山手線の駅でいえば鶯谷。
江戸から明治中頃までは上野の山の裏で
文字通り、鶯の鳴く風雅な谷。
文人墨客に愛され、風雅な別荘が点在するところ。
明治以降でも、かの俳人正岡子規も庵を構え、
34歳の命を結核に奪われるまで、ここに暮らした。

鶯谷駅を降りたことがある方、というのも
少なかろう。
北口を降りると、駅前にラブホテルが林立している、
というのは山手線の駅のなかでもかなり妙な街。
風雅な町がこうなった歴史は今日は長くなるのでやめる。
(このあたり、ご興味のある方は、上記リンクの過去ページを
ご参照されたい。)

[笹乃雪]はもともとは上野の山にあった寛永寺の
第五代貫主が京都から江戸に下向される際に、
ついてきたといわれ、つまりもともとは、京都の
豆腐屋さんであったわけである。

少しだけ説明をすると、この寛永寺の貫主という方は、
江戸時代、代々天皇の子供、つまり宮様が出家して
こられていたもので上野の宮様と呼ばれていた。
豆腐屋さんといっても宮様、寛永寺御用で
町の天秤棒を担いで売り歩く豆腐屋さんとは
氏素性が違っているわけである。
まあ、東京の老舗食い物やの中でも、京都起源というのは
珍しい部類であろう。

一丁、大きなものだが、絹ごし豆腐が600円。
どうせ高いのなら、250円、300円などと中途半端に高いより、
このくらい違っていると気持ちがよいのではいか。

以前は、牛込神楽坂のスーパーになぜか置いてあり、
思い出したように買っていたが、そのうちなくなった。
そして、もう一軒、日本橋の三越にも置いていたのだが、
これも最新情報を調べるとなくなっているよう。
TELをして確認してみるとやはり今は根岸の店でしか
買えないとのこと。

取り置きをお願いして、帰りに寄ることにした。

鶯谷は上野の一つ先なので、私は御徒町から
二つ乗り越し、降りる。

鶯谷というのは、根岸側だけでなく、上野の山側にも
改札がある。根岸側は北口。
駅を出て、駅前の通りを歩くとすぐに言問通りに出る。
これを渡って、尾竹橋通りになるが10mほど先、左側。

店前、玄関横の植え込みに子規の句碑がある。

うつくしき 根岸の春や ささの雪

前にも出しているが子規先生の[笹乃雪]を詠んだものをいくつか。


春惜しむ宿や日本の豆腐汁


水無月や根岸涼しき笹乃雪


蕣(あさがお)に朝商ひす笹の雪


蕣の入谷豆腐の根岸哉


[笹乃雪]の看板はあんかけ豆腐だし、湯豆腐もあるので、
冬でもよいのであろうが、作品は春夏のものが多い。

入谷は根岸の東隣で、ご存知の朝顔市。
そして、根岸は豆腐とくると、季節はやはり夏になる。

ただ豆腐を詠んだ子規以外の句をさがしてみると
もういろいろ。
余談だが、気に入ったのを少し。

色付くや豆腐に落ちて薄紅葉 芭蕉

料理屋の庭で食べる豆腐、湯豆腐か。
そこに紅葉の葉が落ちて、豆腐の白との対比で
色づいたことが分かった、というような情景のよう。
江戸のようだが、なにか京都っぽい雅な趣。

あるいは、こんなもの

湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎

クボマン先生。浅草生まれの劇作家。
落語の評論もよくしており、そちらは私はあまり評価しない。
俳句も多数詠んでいる。
この句は急逝する一月ほど前のものらしい。
湯豆腐の豆腐の白さと自分の命。
私も五十をすぎて、こういう趣が多少はわかるような気がする。

湯豆腐や隠れ遊びもひと仕事 小沢昭一

やはり本職の俳人ではないが、俳優の小沢昭一氏。
浅草が好きであった小沢昭一先生。
遊びは吉原か。隠れ、で、ひと仕事というからには、
もう少し場末か。その後の湯豆腐なのであろう。

与太話ばかりで紙数を稼いではいけない。
根岸[笹乃雪]。

店に入って、豆腐を調達。
タクシーでワンメーター、帰宅。


絹、600円也、これがパッケージ。





つづく




笹乃雪




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