断腸亭料理日記2018
4月8日(日)午後
さて、日曜日。
夜は、三筋の[みやこし]で天ぷらを食べることにし、
午後、自転車で出かける。
特段の目的があるわけではなく、市中見回り活動。
方向は浅草。
六区から観音様を抜ける。
いつもそうだが、外国人を含めた観光客でごった返している。
当然、六区などでは自転車は押して歩く。
天気もよい。
最近は女性観光客だけでなく、男性もカップルで
レンタル着物を着て歩いている。
女性ものは、ペラペラの安そうなものでも
柄が派手なので、まあ、見られるのだが、
男のものは、さすがにそこまで派手ではない。
羽織まで着ているが、ペラペラ感が際立ってしまい
かわいそうである。
また、男性では黒紋付羽織に縞の袴、なんというのまである。
いくらなんでもこれはどうなのであろうか。
一応、男の正装であるが、今時ほぼこんな格好普通の人は
結婚式でもしない。どこか地方の成人式のヤンキーか、
チンドン屋に見えてしまう。
貸し出している方のセンスのなさなのか。
どうせコスプレなら、もう少し気の利いたお洒落な
男着物を着せてあげればよさそうだが、意外にそんなものは
ないのか。
男着物というのは、基本、昔から地味で渋いのが
よいわけである。
派手にするのは、羽織の裏地くらい。
派手な男着物など、そもそも存在しない。
噺家やら芸人はむしろ正装である黒紋付が多かったわけ
である。役者の舞台衣装くらいであろう。
贅沢を競うのであれば、お召であったり、大島であったり
生地そのものなのであろう。
まさかレンタルでそんなよいものを用意はできまいし。
やっぱりむずかしいか。
ともあれ。
ちょいと、なにか食べたくなった。
そばばかりでは、芸がない。
今日は、ラーメンにしようか。
浅草もラーメンやは増えた。
いろいろあるが、浅草で一番うまいところはどこであろうか。
昔からあるが[与ろゐ屋]。あるいはそう古くもないが、
煮干しの[つし馬]。昨年の連休に行ったが[みつヰ]
なんというものあるが、あの店などは完全にマニア向け。
ちょいと寄れるようなところではない。
[伊藤]もうまいが、浅草というよりは、駒形。
鳴り物入りで登場した[富士ラーメン]なんというのも
なかなか味はわるくはないが客の入りはどうなのであろうか。
とみてくると、消去法のような流れではあるが、
意外に、なんのなんの、ここは上位にくるかもしれぬ。
表題の[弁慶]。
我々の世代にはやはり、忘れてはいけない系列であろう。
もはや、東京ラーメンシーンの潮流からはずれている
のかもしれぬ。しかし、私などにはむしろ安心して食べられる
ラーメンである。
千駄ヶ谷[ホープ軒]がルーツといってよいのであろう。
千駄ヶ谷[ホープ軒]の創業は昭和35年というから、
私の生まれる3年も前。今年で創業58年。
その時からこの味だったのかはわからぬが。
[弁慶]の方の創業年はよくわからぬが、
創業40年を越えているとのこと。
とすると、私などが高校生の頃か。
門前仲町が最初で、そこから堀切、今は浅草が本店。
千駄ヶ谷[ホープ軒]は、博多のとんこつなどがまだ
東京へ入ってくる前。
自己流であのスープに背脂を入れるスタイルを作り出したという。
これは東京のラーメンにとってエポックメイキングなことであったと
いってよいであろう。
色は薄いが、塩味が強い。
背脂チャッチャ系、などという言葉までできたが、
豚の背脂を煮崩したものをラーメンの上から
雨のように注ぎ、出す。
従って、ラーメン丼やら、カウンター、店中、脂まみれ。
床も脂で滑る。
だがその後、背脂チャッチャはどこへ行ったのであろうか。
東京で新しく出てくるラーメンはもう10年、20年は、
背脂をスープに浮かせるところはなくなっているであろう。
今のトレンドは必ずしも脂(油)少なめのさっぱりばかり
ではなく、食べ応えのようなものはちゃんとありながら、
あの背脂チャッチャをしなくともなんら問題はない。
そういうこと、なのであろう。
まあ、見た目にもあまり身体によさそうでもないし、
店もベトベトになって他の手段で解決できるのであれば、
その方がよいのは当然のことであろう。
だが、やっぱり昨日今日でき星のようなところよりも
背脂チャッチャの方が安心できるのである。
場所は、少し前に言問通りの北側から南側に
移ったが、ちゃんと元気に営業している。
半端な時刻なのでノーマルなラーメン。
これが名にし負う、背脂チャッチャ。
ボイルしたもやしとねぎ。
食べるうちにとろけていく三枚肉の、チャーシュー。
麺はまあ、太めであろう。
そして、塩味の強いスープ。
少しずつ味は変わっているのかもしれぬが、
変わらぬ、背脂チャッチャ。
なくなってしまってはやはり寂しかろう。
弁慶
台東区花川戸2-17-9
03-5828-7355
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