断腸亭料理日記2017
2月8日(金)夜
17時。
京橋で仕事終了。
さて、どこへ行こうか。
いや、今日は既に決めてある。
日本橋高島屋、特別食堂。
と、くれば、そう。
いわずと知れた、池波レシピ、うなぎの麻布[野田岩]、で、ある。
ちょっと久しぶりであろうか。
このくらいの時刻にこのあたりにいれば、
私の場合、いくつか選択肢がある。
鮨で日本橋[吉野鮨]、洋食で[たいめいけん]、
あるいは蕎麦で[やぶ久]あたりであろうか。
たまには[野田岩]のうなぎも食べねば。
京橋から中央通りをテクテク歩いて、日本橋へ向かう。
まあ、といっても、高島屋は目と鼻の先。
東京駅からの八重洲通りを越えて
左側が丸善で右が高島屋。
特別食堂は以前は裏にある別館にあったが
今は改築中で本館の8階。
エレベーターで上がって特別食堂。
まだ時分時(じふんどき)には少し早く、空席は多い。
奥の壁際の席に案内される。
テーブルが壁側の席に寄せてあるので
テーブルを引いて掛けさせてくれる。
メニューが置かれる。
野田岩のページを開く。
なんだか来るたびにメニューが増えている。
うな茶?、お茶漬けのようなものもある。
だが。
ここは白焼きと、うな重がセットになったものがある。
浅草の近所のうなぎやでも、内儀(かみ)さんといく場合は、
白焼きをつまんでうな重、という頼み方をする。
うな重だけでもむろんよいのではあるが、
同時に白焼きも食べられるのであればまさにフルコース
で、ある。
それだけ、東京の名のあるうなぎやの白焼きは、
蒲焼に勝るとも劣らないと思っている。
白焼きと、うな重のセットには二つある。
両方とも一串分のものと半分のもの。
さすがに半分のものでよろしかろう。
4,700円。
うなぎ、というのはおもしろいものである。
ここ数年前からうなぎの値段は上がったっきりだが、
ここも特別高価ではなかろう。
[野田岩]のような有名店や老舗でも
街のうなぎやでも実のところ大幅な差はない。
うな重の値段というのは、使っているうなぎの量で
決めている。これは有名店でも街のうなぎやでも同じ、
なのである。
それで、有名店だからといって刺身などの付いている
コースにでもしなければべら棒に高くはならない、のである。
ビールがきてお新香を先に持ってきてくれた。
お新香を肴にビールを呑む。
きゅうりがちょっと古漬けになっていて
うまい。
きた。
毎度のことだが、このお重が運ばれて
ふたを開けるまで、ほんの少しの時間だが、堪らなくよい。
待ちに待ったらお重がきて、これから
食べるうな重がどんな顔をしているのか
どんかな香り、なのか。
期待で胸が一杯。絶頂に達した瞬間、なのである。
そして、開ける。
これ、これ。
見よ、この美しい姿を。
特に、野田岩のものは美しい、のではなかろうか。
しばらく見ていたいくらい、である。
が、むろん、すぐに白焼きから箸を付ける。
まさに、これが江戸前の味。
世界に誇るべき、東京の味、であろう。
白焼きをつまみ終え、ビールを片づけ、お重にかかる。
[野田岩]の蒲焼、というのは、比較的さっぱり系。
うまい、うまい。
夢中でかっ込む。
お重は、やっぱり、かっ込むもの。
ふう。
ご馳走様でした。
素晴らしかった。
毎度思うが、うなぎ蒲焼、東京都の重要無形“食”文化財に
指定してしかるべきであろう。
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