断腸亭料理日記2016
夏休みのモルディブと「諏訪大社」のことを
ながなが書いてきたが、そろそろ断腸亭料理日記
通常バージョンに戻らなければならないのだが、
その間で書いておきたいものをいくつか。
まずは、表題のここ。
これはモルディブから帰り、仕事に復帰した
金曜日。
とんかつが食べたくなり、
久しぶりに[蓬莱屋]にしてみよう
と考えた。
[ぽん多][井泉]と合わせて御三家の一角。
[蓬莱屋]は「大正初年、松坂屋の南の横丁に
屋台を出したのが始まり」で、
今の場所に店を構えたのが、昭和三年。
ここはヒレカツの店で、ヒレカツを最初に出した
ともいう。
五反田のオフィスからの帰り道。
山手線を御徒町で降り、吉池の路地を抜けて、
松坂屋に突き当たる角。
7時すぎ、暖簾を分けて入る。
入るとくの字のカウンター。
奥に座敷もあるが、カウンターは小さい。
先客は3人ほど。
皆、お一人様で年は私よりも上。
カウンターの向こう側は二人。
照明はかなり明るめで、
とても静か。
座るとすぐにお茶が運ばれるが、
むろん、ビールを頼む。
エビスの中瓶。
休み明けでばたばたした一週間であったが
暑い外気から遮断されたキンキンに冷えた
静かな店内。
エビスと小ぶりのグラス。
お通しの枝豆の煮びたし。
(ここはいつもこれであった。)
隷書のような書体であろうか、
臙脂(えんじ)色の蓬莱屋の店名入りの
箸袋。
とてもくつろげる時間である。
一杯、一気に飲み干す。
注文はやっぱり、ご飯はなしで、
ヒレカツだけ。
二杯目からは、枝豆をつまみながら
ゆっくり呑みながら、待つ。
衣をつけて、揚げる。
ここも油温の違う油で二度揚げ。
太いヒレカツを一本のそのまま揚げるので
技があるのであろう。
高い温度から揚げ始め、低温で火を通す
という。
出来上がった。
揚げ色はかなり濃いめであろう。
初めて食べた時には、焦げているのかと思うくらいであったが
むろんそんなことはない。
このすぐ近くの[ぽん多]とは正反対である。
衣の厚さ薄めでしっかりしている。
切り口は、ほんの少しピンクがかっているか。
カウンターのソースをかけて、食べる。
いつも私は、とんかつやではロース以外食べない。
ヒレはかなり久しぶり。
ヒレという以上に柔らかく、
しっとりとし、旨みにあふれている。
油っこさは、皆無。
大正の屋台時代から数えると、創業104年。
流石にヒレカツ元祖、派手さはないが、
これを完成されている味というのであろう。
うまかった。
ご馳走様でした。
勘定をして、出る。
小津安二郎監督のご贔屓で、亡くなる直前の
病床にとんかつを届けた店でもある。
静かに、うまいヒレカツを揚げ続けてほしい店
で、ある。
台東区上野3-28-5
03-3831-5783
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