断腸亭料理日記2016
引き続き「外郎売」に関する疑問。
二つめ。
なぜ成駒屋の晴れの芝居に
音羽屋の松緑が主役を勤める芝居があるのか。
このことであった。
これは明確には分からず私の想像も多少含まれている。
昨日書いた、松緑(先々代)が尾上菊五郎(六代目)に預けられたのと
同時期に早くに親を失い、寄る辺がなく、同じ菊五郎
を頼ったのが芝翫(先代)、だったのである。
芝翫と松緑は一門は違うが共通の師、菊五郎を介して、
兄弟弟子の関係で、それもかなり近い関係であった。
(年は松緑の方が15才上。)
この二つの家の関係はその後も続いたようである。
つまり、芝翫家と松緑家は二代、三代に渡って
世話をしたりされたり、そんな関係であったようなのである。
(ご通家の方、合っていようか。)
当代、四代目松緑という人は12才で父を、
14才で祖父を相次いで亡くしている。
ちょうど先代芝翫の若い頃と同じような
境遇であったのである。
当代松緑の第一の後見は音羽屋一門の親方である、
七代目菊五郎であることは間違いはないのてあろう。
しかし、名実共に成駒屋の親方格になった当代芝翫は
縁浅からぬ家の後輩である松緑を盛り立てたい、
という意思があるのかもしれない。
歌舞伎の世界というのは、たとえ名門の出であって、
役が付かなければどうしようもない。
厳しい世界、なのである。
さて。
一幕目を延々と書いてしまったが、いよいよ二幕目。
「口上」、で、ある。
祝いの引幕が開いて裃姿で平伏した面々が居並ぶ。
中央に、俳優協会会長、坂田藤十郎。
やはり、この人が筆頭なのであろう。
口を切ったは藤十郎。
藤十郎の左隣に、橋之助改め八代目芝翫。
その左に三人の息子。同時襲名。
これは珍しいらしい。
藤十郎の右隣が、人間国宝、立女形、坂東玉三郎。
間があって、両端。
上手が菊五郎。下手が、吉右衛門。
芝翫の上の世代の大看板はこんなものであったか。
幸四郎は今国立で忠臣蔵だった。
團十郎も、勘三郎も亡くなってしまった。
そういえば、芝翫の兄、福助は?。
現在リハビリ中という。
私が歌舞伎を観にくるようになってから、
女形といえば、いつも福助であったが、、、。
やっぱり、橋之助改め芝翫。
あなたの肩にかかった重さは、
今の歌舞伎界そのものかもしれぬ。
勘九郎も七之助もまだ若い。
染五郎もこれから。
成駒屋だけでなく、歌舞伎そのものも
あなたが引っ張っていかなければならなくなってしまった。
是非是非、身体だけは気を付けて。
さて、三幕め。
「一谷嫩軍記」(いちのたにふたばぐんき)「熊谷陣屋」。
夜の部では、芝翫としてはこれが目玉であろう。
熊谷直実を演じる。
私、この芝居は初見。
宝暦元年(1751年)大坂豊竹座で人形浄瑠璃として初演。
並木宗輔作。歌舞伎でも同年すぐ、江戸、大坂で
上演されている。
人形浄瑠璃からの作品で丸本物(まるほんもの)という。
同じく、丸本物の代表作「仮名手本忠臣蔵」が、
寛延元年(1748年)初演なのでそのすぐ後。
ほぼ同時期といってよろしかろう。
一(ノ)谷というだけあって、源平の戦いを扱っている。
全体で五段構成。
それこそ、忠臣蔵ほどではないが長い話しのほん一部。
例によって話しはわかるが、作品としての
よしあし、評価はしない方がよいのであろう。
(しかし、これ通しで演ることがあるのであろうか。
文楽では少し前にあったようだが、
歌舞伎ではあまり聞かない。)
その上でちょっとだけ、感想を書く。
結論からいうと、私、やっぱり丸本物はダメ、
かもしれない。
私の好きな黙阿弥などよりも時代が古い。
そして上方の作者によるもの、だから、か。
同じく人形浄瑠璃から移行した「菅原伝授」などにも共通するが
“君”のためにわが子の命を犠牲にする、という話。
私には、どうしても入り込めない。
ついでにいうと、前にも書いているが、
私の場合「忠臣蔵」も五段目、六段目は納得がいかぬ。
腹を切ってしまう勘平は、あまりにも間抜けであろう。
このような評は、江戸の頃(江戸後期)から既にあって、
私だけの感想ではないのである。
江戸も後期になるともはや近代人である。
不合理な筋はとても受け入れない。
そういう人も既にいたのである。
ともあれ。
この芝居は下の役者絵にもあるように、古くから
成駒屋(三代目中村歌右衛門)の得意とする演目で
昨日書いた、いわゆるお家芸ということ。
一般には成駒屋は女形の家といわれているが、
立役としての顔も以前にはあって、この芝居では
芝翫型という名前までついている演出を八代目は演じていた。
一度、通しを八代目の座頭で観たいのだが、
いかがであろうか。
三代目中村歌右衛門 熊谷次郎直実。
文化8年(1820年)9月、江戸中村座。
歌川国貞画 ウィキペディアより
断腸亭料理日記トップ | 2004リスト1 | 2004リスト2 | 2004リスト3 | 2004リスト4 |2004 リスト5
|
2004 リスト6
|2004
リスト7 | 2004 リスト8 | 2004 リスト9 |2004 リスト10
|
2004
リスト11 | 2004 リスト12
|2005 リスト13 |2005 リスト14 | 2005
リスト15
2005
リスト16 | 2005 リスト17 |2005 リスト18 | 2005 リスト19 | 2005 リスト20
|
2005
リスト21 | 2006 1月 | 2006 2月| 2006 3月 | 2006 4月| 2006 5月| 2006
6月
2006 7月 |
2006 8月 | 2006 9月 | 2006 10月 | 2006 11月 | 2006
12月
2007 1月 | 2007 2月 | 2007 3月 | 2007 4月 | 2007 5月 | 2007 6月 | 2007 7月 |
2007 8月 | 2007 9月 | 2007 10月 | 2007 11月 | 2007 12月 | 2008 1月 | 2008 2月
2008 3月 | 2008 4月 | 2008 5月 | 2008 6月 | 2008 7月 | 2008 8月 | 2008 9月
2008 10月 | 2008 11月 | 2008 12月 | 2009 1月 | 2009 2月 | 2009 3月 | 2009 4月 |
2009 5月 | 2009 6月 | 2009 7月 | 2009 8月 | 2009 9月 | 2009 10月 | 2009 11月 | 2009 12月 |
2010 1月 | 2010 2月 | 2010 3月 | 2010 4月 | 2010 5月 | 2010 6月 | 2010 7月 |
2010 8月 | 2010 9月 | 2010 10月 | 2010 11月 | 2011 12月 | 2011 1月 | 2011 2月 |
2011 3月 | 2011 4月 | 2011 5月 | 2011 6月 | 2011 7月 | 2011 8月 | 2011 9月 |
2011 10月 | 2011 11月 | 2011 12月 | 2012 1月 | 2012 2月 | 2012 3月 | 2012 4月 |
2012 5月 | 2012 6月 | 2012 7月 | 2012 8月 | 2012 9月 | 2012 10月 | 2012 11月 |
2012 12月 | 2013 1月 | 2013 2月 | 2013 3月 | 2013 4月 | 2013 5月 | 2013 6月 |
2013 7月 | 2013 8月 | 2013 9月 | 2013 10月 | 2013 11月 | 2013 12月 | 2014 1月
2014 2月 | 2014 3月| 2014 4月| 2014 5月| 2014 6月| 2014 7月 | 2014 8月 | 2014 9月 |
2014 10月 | 2014 11月 | 2014 12月 | 2015 1月 |2015 2月 | 2015 3月 | 2015 4月 |
2015 5月 | 2015 6月 | 2015 7月 | 2015 8月 | 2015 9月 | 2015 10月 | 2015 11月 |
2015 12月 | 2016 1月 | 2016 2月 |
2016 3月 | 2016
4月 | 2016 5月 | 2016 6月 |
2016 7月 | 2016
8月 | 2016 9月 | 2016
10月 |
(C)DANCHOUTEI 2016