断腸亭料理日記2016

水炊き・かわはぎと白子

11月9日(水)夜

水炊き、で、ある。

かわはぎを水炊きにしようと思って買ってあった。
いい加減食べてしまわねば。

帰り道、なんの気もなしに、吉池に寄ってみる。

かわはぎだけでもむろんよいのだが、、、

ん!。

白子。

鱈のものである。

鮮度がポイントだが、買ってみようか。

帰宅。

かわはぎの水炊きというのは、子供の頃、よく食べていた記憶がある。
安かったのかもしれぬ。

水炊きというのは、文字通りつゆに味を付けずに
水から炊く。
現代では全国的にポピュラーな鍋といってよいと思う。
先日食べた、ふぐの鍋、ふぐちりも昆布だけを入れて
水だけで煮る、水炊き。

ただ、水炊きというのは、さほど古い食べ方ではないようである。

東京の鍋というのは、すき焼き、それ以前の軍鶏鍋などのように
甘辛く照り煮のようにするものが基本であったと思われる。

あるいは、煮汁が多くとも、おでんのように濃いしょうゆ味で
煮込んでしまうもの。

水炊きの元祖は博多の鶏の水炊き、といわれているようで、
これとても幕末あたり。
ふぐちりなども、盛んに食べられるようになったのは
ふぐの調理法が確立された明治以降であろう。

従って、水炊きは九州方面から始り、京阪神、そして東京はじめ
東日本に広まっていったのであろう。
それで、東京などで一般化したのは戦後のこと、かもしれぬ。

味付けは、ぽん酢しょうゆが欠かせない。

かわはぎ。

かわはぎといっても、ウマズラハギ。

皮がむかれて、肝もない。

この他に用意したのは、豆腐と白滝、春菊、ねぎ。

白子。

かわはぎは出刃包丁で半分に切っておく。

白子も一口に切り、皿に。

せっかくなので、ビールではなく、燗酒にしよう。

火鉢に火を熾して、鉄瓶を用意しておく。

鍋の方はカセットコンロ。

土鍋に水を張って昆布を入れて、温めておく。

具材を入れ、

火が通ったら、食べる。

白子。

ん!。

これはあたり。

うまい。

さすがに御徒町・吉池。
この値段でいい加減なものは、売らぬであろう。

生ぐささなど皆無で、抜群にクリーミー。

今日は、かわはぎよりも、白子の方が主役か。

うまかった。


しかし。

水炊き、と、いうもの、考えてみれば不思議である。

なにがといって、湯がくだけの鍋なので、シンプル。
それで、うまい。

もっと昔からあってもよさそうである。

伝統的な鍋料理は、東京以外も味噌やしょうゆの濃い味で煮るのが
セオリーであったと思われる。※

ぽん酢しょうゆで食べるというのは、やはり西日本のもので
ふぐちりなどから広まっていったのであろう。

ぽん酢しょうゆ(はやくいえば「ミツカン味ぽん」)と水炊きは
なんだか国民的にワンセットである。
ぽん酢しょうゆがあったので、西日本で水炊きが生まれたのか?。

ただ、ぽん酢しょうゆがなければ、水炊きは成立しないのかといえば、
例えば、東日本だったら、ぽん酢しょうゆでなくとも、
お得意の濃口しょうゆをかけるだけでも食べられる。
が、こういう食べ方の鍋は存在しなかった。
(余談じみるが、池波レシピに鶏と大根の鍋というのがある。
登場したのは「梅安」であったか。あれは水炊きでしょうゆだけを
かけて食べる。これはおそらく、池波先生の創作ではあろうと思っている。
先生自身が考えて好きで食べていた、のでは、と。江戸東京の
伝統的料理ではないだろう。)

お、忘れていた!。
湯豆腐があった。

湯豆腐は水だけで、薬味ぐらい入れるが
基本しょうゆで食べる。
うーん、、、だがまあ、やはり豆腐は例外が。

水炊き問題、なぜであろうか。
またこれ、私の宿題にしようか。

 

 

※漁師や猟師が作る、○○汁というのが全国に数多(あまた)ある。
郷土料理の類である。身から、臓物、魚ならば肝や真子、白子全部刻み込む。
味付けはやっぱり水炊きではなく、味噌が入るのが大多数ではなかろうか。
これが古い形の“鍋”料理といってよいのであるまいか。
なんとなく、これがヒントになりそうである。


 


 


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