断腸亭料理日記2016

鳥料理・人形町・玉ひで その2

3月7日(日)夜


引き続き、日曜の人形町[玉ひで]。

お客は、この広間には我々を入れて、4〜5組。

個室にもお客はあるよう。

ただ日曜で多少少なめ、なのかもしれない。

白滝、豆腐、ねぎも入れて煮はじめる。


またまた取ってくれる。

 

ここからは、温泉玉子を溶いて、つけて食べて下さい、とのこと。

白滝が細い。
うちの内儀(かみ)さんはなぜだか白滝が好物である。
中でも細いのが好みなのだが、確かに白滝は細い方がうまい。

余談であるが、
拙亭のある元浅草からさほど遠くない、佐竹商店街の
少し南に[大原本店]というコンニャク、白滝、生麩、
つと麩(江戸の生麩)、湯葉などを作っているところがあるが、
ここが細い白滝を作っている。

細い白滝というのは確かに珍しい。
確か、神田須田町あんこう鍋の[いせ源]の白滝も細く、
ここのものではないかと思っている。

また浅草の牛肉や[松喜]ではすき焼き用というので、
この店の白滝を扱っていたり。
同じく浅草新仲見世、すき焼きの[今半本店]のものも細かった。
東京下町の老舗鍋やでは、すべて、というわけではないが、
細い白滝にお目に掛かることが多いと思われる。

細い白滝というのは物は同じで細いだけだと思うのだが、
細い分料理をすると水が抜けやすいということなのか、
シャキシャキとした食感になる。これがうまいのである。
閑話休題。

つくねも煮はじめる。


 

つくねと出汁にしていた皮、胸と、ももももう一回。

 


うまかった。

ここまでで、軍鶏鍋は終了。
ここの割り下は、印象ではあるが、多少甘めかもしれぬ。

このあとは、名物の親子丼。

夜のコースにもお昼の行列親子丼が付く。

若干のインターバルがあって、元祖という親子の登場。

 

お新香のみで、先にスープがあったからか、
味噌汁のようなものはなし。

 

さすがにコースの最後なので、ご飯は少なめ。

トロトロの半熟。
肉と玉子のみで野菜などは一切なし。
ただ、肉はいろいろな部位が入っているよう。

やっぱり、これも甘い。
東京の一般標準の親子よりも確実に甘いと思われる。
出汁がたっぷり出ていたので、今、鍋にしていたつゆを
使っているのかもしれぬ。

そして、肉が堅い。

先ほどから食べてきた、東京軍鶏というのは、
こうして親子にすると、なおさらなのか、堅く感じる。

本当はしっかりした食感というべきなのであろう。
柔らかいブロイラーに慣れされている我々の
口の問題である。

水菓子、苺が出て終了。

ご馳走様でした。

腹も目一杯。

席で勘定をして立つ。

お姐さんが階下の下足へ、
○番さん、お立ちで〜す、と、声を掛ける。

お立ちで〜す、というのはまた、古い言葉である。
これはよい。

漢字をあてれば、発(た)つ、になろう。

旅人が宿を発つ、か。
とすると旅館、旅籠で使っていたのか。

吉原などの遊郭はどうか。

私が聞いたことがあるのは、落語で、文楽師の「つるつる」あたり。
柳橋であったか、花柳界の料理やでお客を送り出す時に
やっぱり使っていた。
時代とすれば、明治大正の頃であろう。

この人形町も花柳界であったので、この店には当時の言葉が
今も残っているのかもしれない。

じゃあ、車呼んで!。
人力車、、、あるいは、黒塗りの円タクがきて、、。

今でも、車呼んで、と、我々でも使う。
むろんタクシーのことだが、これも残っている言葉、
なのかもしれぬ。

ともあれ。

人形町[玉ひで]、どうであったか。

ここは江戸創業で東京一有名な軍鶏鍋や。
話しは池波作品鬼平の軍鶏鍋や[五鉄]のことになる。
(この店のメニューには鬼平、五鉄なんという名前も出てくるが。)

それこそ江戸に近い空気であれば、神田須田町の
[ぼたん]の方が、それらしいであろう。

味的には、ちょっと私には甘さが引っかかった。
おそらくこれは、下町の味ではなく山手?
もしくは花柳界のお姐さんやお客向けの味なのではなかろうか。
下町であればもう少ししょうゆが立つはずである。
江戸伝統の軍鶏鍋ではなく、明治大正の東京花柳界の軍鶏鍋、
ということになるのかもしれぬ。

少し前に、読者の方から[五鉄]のモデルは
どこでしょう?と聞かれたことがあった。

結論からいえば、おそらく、ズバリこの店という
特定のモデルはない。
あえていえば、いくつかの店の合成なのだと思う。

この店もそのいくつかあるモデルのうちの一つ。

ただ、池波レシピには個人的には入れられなかろうと、
思うのである。

 

 


玉ひで

 



 

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