断腸亭料理日記2015

浅草・並木藪蕎麦

9月14日(月)夜

栃木の工場からスペーシアで帰ってきた。

昨日まで、先週の大雨でスペーシアは運休していたが
今日から、鹿沼より南で走り始めている。

被害を受けられた方にはお見舞いを申し上げる。
ただ、工場との往復なのでむろん細かいことはわからないのだが、
きれいに実った稲穂が多くみられ、栃木の被害は
ある程度限定的のように見受けられた。

車中、なにを食べようか考えて、
[並木藪]で蕎麦、と決めた。

東武の浅草を降りて、雷門から藪蕎麦まで歩く。

近くまでくると、看板の灯りが消えている。

ここは7時半までである。
今、7時15分すぎ。

閉店間際である。

ん!?。

暖簾は出ている。

ギリギリか。

開けて入る。

お姐さんに、まだ大丈夫ですか?と聞くと、
7時半までですが、、。

はい、すみません。

手前のテーブルに座る。

お客は奥のテーブルに男女一組だけ。

涼しくなったので、鴨、とも思ったが、
やっぱりまだ。

であれば、毎度お馴染み、天ぬき、で、ある。

お酒、冷(ひや)と天ぬき、それからざる一枚。
一気に頼んでしまう。 

奥に注文を通す声が聞こえる。

お酒がきた。


右側に見えるのは、座った時にお姐さんが置いてくれた
読売新聞の夕刊。
この時刻だと、ちゃんと夕刊なのである。

蕎麦味噌をなめながら、一杯。

きた、天ぬき。


かき揚げがいつもよりも、しっかりしている。

通常は、かき揚げを揚げて、丼のつゆに入れ、
持ってくるまでに、注文が立て込んでいれば、
2分、3分はかかるのかもしれない。
つゆに入れて、まだ30秒も経っていないのであろう、
他にお客もなく、特急ということか。

温かいつゆが、うまい。
だしの香りが鼻を抜け、腹に染み渡る。

並木藪のつゆは、かけであっても、おそらく東京一、濃い。
だが、今日は、体調のせいであろう、あまく、
ノーマルに感じられる。

すぐに、ざるもきた。


のびてしまうので、こちらを先に片付けよう。

わさびを箸先につけ、そばをつまむ。

つゆはもちろん、天ぬきのものよりも、こちらの方が濃い。
濃い東京下町の味に慣れている私でさえ、この家のつゆでは、
箸でつまんだほんの先の方だけつけるだけで十分。

事情をご存知ない地方の方などは、箸から放して
つゆにどっぷりつけてしまう姿をたまに見るが、
これは、ここに限らず、例えばここよりは多少薄い、
上野の藪蕎麦などでもやめた方がよい。

じゃあ、最初からつゆを薄くすればよいではないか、という方もあるかもしれぬ。
しかし、そういうものではない。東京のそばのつゆは昔からこういうもの
なのである。スタイルであり、これが食文化。
変えてはいけないものもある、と、いうことである。

東京一極集中。
全国均質化。

東京下町だって一地方。

均質化されてしまったものもたくさんある。

そばのつゆくらい濃いままで置いておいてほしいと
思うのである。

この家を建て替える時にも、造作など見た目には
以前のものとまったく変わらぬようにした[並木藪]のこと、
おそらく、つゆの濃さは未来永劫、暖簾をかかげている限り
変えたりはしなかろう。

ともあれ。

そばというのは不思議なもので、手繰りながらも
酒が呑める。

ざるを片付け、再び天ぬきに戻る。

天ぬきのつゆは薄く感じたせいか、
結局全部飲み干してしまった。

ちょっと慌ただしかったが、お勘定。

お姐さんが、急がせてしまったことに
しきりに、恐縮している。

いえいえ、こちらこそ、閉店まぎわに入ってきて、
申し訳ありません。

ご馳走様でしたぁ。






03-3841-1340
台東区雷門2丁目11−9


 


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