断腸亭料理日記2014
10月2日(木)昼
午後一、人形町。
昼飯を人形町で食うことにする。
それで洋食の[小春軒]。
人形町で昼飯というと、比較的ここが多いかもしれない。
創業明治45年の老舗でありながら、気取らず、うまい。
人形町というのは江戸も初期からの盛り場といって
よろしかろう。
歌舞伎の江戸三座の内の二座があり、また、
明暦の大火後に浅草の北へ移転するまで
江戸唯一公許の吉原遊郭があり、さらに、陰間(かげま)茶屋
といわれる若い美男の男を売る商売などもあった。
明治以降はいわゆる三業地にもなり芸者さんがいる
いわゆる花柳界になり、あるいは明治座などの
芝居小屋が人を集めた。
また、この界隈は多く戦災で焼け残ったこともあり、
大正時代の関東大震災後の建築が最近まで多く残っていた。
そんなこともあって、今は建て替えられているが
老舗が多く残り、独特の街の雰囲気になっていると
思われる。
小春軒は甘酒横丁の交差点を西に曲がったところにある。
浅草線の人形町駅で降りて、人形町通りを歩き
甘酒横丁交差点を右に曲がる。
曲がったすぐ右が、かの[玉ひで]。
店の前には毎度のこと、親子丼目当ての長い列。
その先、コンビニの隣が[小春軒]。
ひょっとすると通りすぎてしまうような
小さな店ではある。
12時ちょいすぎ、硝子格子を開けて入る。
まだパラパラと空席はある。
これがすぐに満席になるので、
このくらいの時刻には店に入らなければ
いけない。
今日は天気がよくて上着を着て歩いていると
汗が噴き出してくる。
上着を脱いで、相席で座る。
次から次へと近くのサラリーマンらしいお客が入ってくる。
おかあさんが、お冷のグラスとメニューを
持ってきてくれる。
さて。
なんにしようか。
ここのメニューの中心は揚げ物であろう。
コロッケは絶品。
それから、メンチカツ、ミックスフライなどなど。
そうでないとすると、オリジナルのかつ丼。
これはおそらく今のかつ丼が生まれた大正時代頃に
同時にここでも作っていたものだと思われるのだが
デミグラスソースのもの。
今日は、揚げ物でもなく、かつ丼でもなく、
焼き物?!。
カジキのバタ焼き。
カジバタ。
それに一個ツキ。
この店はこういう頼み方ができるのだが、
ポテトコロッケを一個つけて、というもの。
待っている間に、席は埋まった。
きた。
カジバタ一個ツキ。
付け合わせはキャベツの千切り、ポテトサラダ、
それから、小っちゃないかのかき揚げのような不思議なもの。
添えられているレモンを絞って食べる。
カジキがまた絶品。
しょうゆバターのが実に香ばしい。
火の通り具合が絶妙。
こういものは火を通していくとすぐに
パサパサになってしまう。
これは、プリプリ。
バタ焼きというのは、今はこういう店でないと
消えてしまったメニューかもしれないが
実にうまい。
ポテトコロッケはポテトが実にねっとり。
そして柔らかい。
突出しているものはないのだが、
あたりまえのものを最もうまく作る、
ということを、この店はわきまえているのだと
思う。
うまかった、うまかった。
外で待っている人もいる。
とっとと席をあけねば。
元気なおかあさんに勘定をして、出る。
ご馳走様でした。
気取らず、うまいものを食べさせてくれる。
よい洋食や、で、ある。
中央区日本橋人形町1-7-9
03-3661-8830
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