断腸亭料理日記2013
2月9日(土)
さて。
まだ、先週からのつづき。
日比谷の日生劇場で芝居がはねて
8時すぎ。
なにを食べようか。
うん。ここだったら、隣。
そう、帝国ホテル、で、あろう。
随分前にNHKのドラマでやっていた、村上総料理長のこと。
これに感動したのが最初。
村上総料理長は、帝国ホテルの名物でもあるし、NHK「今日の料理」への出演、
あるいは、東京オリンピック選手村の料理長を務め、
全国から集まった洋食の料理人を指揮し、結果、戦後、
日本全国津々浦々、レストランから家庭まで、洋食文化を広めた人。
ハンバーグステーキだったり、
いわゆる、バッフェスタイルの食事の提供の仕方、
“バイキング”を広めた人。
そして、最近はさすがにあまり見かけなくなったが、
そこらじゅうの洋食店、レストラン、ホテルなどの
メニューにあったシャリアピンステーキ。
皆さんもご記憶にあろう。
(本所石原レストランクインベル)
私は、食べたこともなかったが、この起源が
帝国ホテルであったということ。
などなど、東京の洋食という観点では、
明治にさかのぼるところは少なくないが、村上総料理長抜きに
特に戦後の日本の洋食を語ることはできないのだろうし、
同時に帝国ホテルの洋食というものは、日本の洋食文化の中で
果たしてきた役割を含め、まさに重要無形文化財と呼んで
しかるべき存在であろうと考えている。
帝国ホテルにはむろん、和洋中含め、
たくさんのレストランがあるが、この“帝国ホテルの洋食”が
食べられるのは二か所に分かれている。
カジュアルな[パークサイドダイナー]。
ハンバーグステーキが食べたければ、こちら。
シャリアピンステーキであれば、
地下の[ラ ブラスリー]。
今日は、こっちがよかろう。
日生劇場の玄関から、通りを渡り、向かい側。
帝国ホテルの北側の出入り口から入ってすぐの
階段を降りれば、[ラ ブラスリー]。
予約はしていない。
混んでいるようだが、入れないことは
ないよう。
案内されて、入口から向かって右側のフロア、
中央付近のテーブルに座る。
着物を着て、こういうゴージャスなレストランへくる
というもの、ちょっとおもしろい。
ここへきてもやっぱりもらうのはビール。
ヱビスの生。
頼むのは、もちろん、シャリアピンステーキ。
ただシャリアピンステーキはメニューには
30分かかる旨、書かれている。
これを食べるためにここにきたのだから、
時間はかまわない。
歌舞伎を観ながら、サンドイッチなども
食べていたので、あとは、オードブル盛り合わせを
二人で一皿をシェアすることにする。
オードブル盛り合わせ。
パイ、野菜のゼリー寄せ、テリーヌというのか、
リエットというのか、鴨であろうか肉のパテなど。
昨夏、イタリアへいった時にもそうであったが、
こういうものこそ、ワインとともに、
なのであろうが、内儀(かみ)さんも私も、
ビール一辺倒。
ワインというのは、どうしても呑みすぎてしまうのである。
さて、お待ちかねのシャリアピンステーキ。
添えられているのは、マッシュポテトと
にんじんのグラッセ、ブロッコリー。
上に、狐色まで炒められた玉ねぎみじん切りが
きれいに敷かれている。
肉は叩かれて、ナイフを入れると軽く切れ、
口に入れるとほどけるように、柔らかい。
肉は脂のない赤身。
このシャリアピンステーキは帝国ホテルが生み出したメニュー。
戦前、1936年、昭和10年。
ロシア人の著名な声楽家シャリアピン氏が滞在された際、
氏は、ステーキが好きなのだが、歯が悪くて食べられない。
柔らかく、歯が悪くても食べられるステーキを、と、いうリクエストに
当時の帝国ホテルのシェフ達が工夫したもの。
ポイントは、すり下ろした玉ねぎに肉を漬け込み、焼く。
シャリアピンは人の名前だが、こういう由来。
実のところ、実際に自分で作ってみたことがある。
上にのっている玉ねぎとは別に、あらかじめ
おろした玉ねぎに肉を漬けておき、柔らかくしている。
ステーキとしては随分と手間がかかっているもの。
上にのせられた炒め玉ねぎのあまみ、うま味、
玉ねぎに漬けられた脂のない赤身の肉とが渾然一体となり、
まさに絶妙なうまさ。
やはり、日本洋食の歴史の中で、
忘れてはならない一品として、帝国ホテル伝統の
シャリアピンステーキには重要無形文化財を
差し上げなければいけなかろうと思う。
ご馳走様でした。
とても、おいしゅうございました。
(お会計は、ステーキが\5000、オードブル盛り合わせは
\3000、二人で合計\18000ほど。)
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