断腸亭料理日記2013

小松菜の煮びたし

12月18日(水)夜

今日はなにを食べようか。

例によって、7時すぎオフィスを出て駅に
向かいながら、考える。

昨日は北陸日帰り出張で駅弁やらちょっと食べすぎた。

今日は簡単にしよう。

確か、冷蔵庫の野菜室に内儀(かみ)さんが買った
小松菜があった。
早く調理しておかないとわるくなってしまう。

煮びたしにしよう。

小松菜の煮びたしで、燗酒もよいかもしれない。

油揚げも冷蔵庫にあったはず。
一緒に煮よう。

小松菜と、いうのは、どのくらいの方がご存知であろうか。
現代に生き残っている数少ない江戸野菜といってよかろう。

東京生まれ、東京育ちの祖父母、父のいる家で育ったので
小さい頃から、小松菜は冬になるとよく食卓にのぼっていた。

ほとんどがしょうゆで辛く煮た、煮びたし。

子供の口にはあまりうまいものとも思わなかったが、
酒を呑むようになって、味がわかるようになってきた。

我が家では、雑煮に入れる菜(な)っ葉も子供の頃から
今でも小松菜に決まっている。

江戸川区に小松川というところがある。

小松菜は小松川の菜っ葉であるから、小松菜。

むろん、当時は江戸の郊外の田園であったが、
小松菜はこの小松川あたりを中心に作られていた。

今でも、都内、葛飾の水元の農家などでは
作っていると思われる。

江戸のある武蔵というところは、基本、赤土の関東ローム層。
痩せた土で、京都など近畿地方と比べても、
うまい野菜が採れなかった。

それで、うまみを補うために濃口しょうゆが生まれ、
定着した、などともいわれている。

小松菜の他にも江戸在来の野菜というのは、練馬大根、
亀戸小かぶ、滝野川牛蒡、谷中生姜、、、などなど、随分と
あったのだが、今に残って、実際に東京で作られているのは
小松菜と多摩の独活(うど)、くらいなのかもしれない。

ただ小松菜だけは別格である。

他の江戸野菜は品種改良されたのか、滅んだのか
名前はすら残らっていないのに、小松菜一人、今は、
東京に限らず作られており、売られてもいる。

今、東京のスーパーでも、ご存知の通り青物とすれば、
ほうれん草か小松菜が定番で、色々な産地の小松菜が
ほぼ一年中並んでいる。

いわゆる菜っ葉の中でも、江戸の小松菜が全国区の
菜っ葉として生き残ったのはなぜであろうか。

むろん、漬物にするので有名な長野県の野沢菜など
各地方地方で、地の菜っ葉は今でも多くあるのであろう。

だが、小松菜は、育てやすかったのか、うまかったのか。

わからぬが、東京で生まれ育った者として地元の野菜が
現代においても生きて多くの人に食べられているのは
うれしい限り、で、ある。

さて、小松菜はどうやって食べるか。

おひたしもよい。
茹でただけで、カツブシをかけてしょうゆだけ。
これもうまい。

シャキシャキした食感が小松菜の身上かもしれない。

また、煮びたしも、同じく江戸名物、浅蜊の剥き身で
するのもまたよい。

小松菜には微かに苦味があり、この苦味が浅蜊にもある
苦味と呼応し、うまいのである。

今となっては、浅蜊むき身は割高なもの。
今日は、油揚げだけと煮る。

帰宅。

作る。

まあ、作るといっても、しょうゆと酒で煮るだけ。

根本の部分を切って、よく洗う。

なぜだか小松菜は根元の部分に土が残っている。

よく洗って、5cm程度の長さに切る。

油揚げは短冊。

鍋に小松菜と油揚げを入れて、しょうゆと酒。
それからほんの少しの水。

火をつけて煮立てる

煮立ったらふたをして弱火。

しばらくして、火を止める。

葉物なので、あとは、余熱で置いておけば
よいであろう。

煮びたしというくらいで、よく味を馴染ませことは必要である。

その間に、お燗用に炭を熾し、火鉢へ。
鉄瓶もガスで熱くし、火鉢の五徳に据える。

小松菜の鍋のふたを開ける。

うむうむ。

よく馴染んでいる。

盛り付けて、お膳へ。

座って、燗もつける。


子供の頃にはもっとしょうゆの色が付くほどの
味であったと思う。
まあ、もっとも、時間をおくと、どんどんしょうゆが染みて
いくと思うが。

辛口の菊正宗の燗酒がまた、しょうゆ味に実によく合う。

小松菜煮びたしと、燗酒、うまいもんである。



 


 



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