断腸亭料理日記2012
11月11日(日)夜
さて。
日曜日。
なんでであろうか。
なにを食べようか、考えたら、三筋の天ぷらや
みやこし、を、思い出した。
天ぷら、と、いうのは私の場合、冬よりも
春先や初夏に食べたくなる。
揚げ物というのは、暖かくなる頃、
あるいは、暑くなる頃が、気分、なのである。
また、季節の変わり目、と、いうのは、
魚介類にしても野菜にしても、初物が出てくるので、
天ぷらやに限らず、鮨やにも足が向く。
天ぷらやの春先であれば、白魚。
むろん今は獲れないが、江戸前の白魚。
歌舞伎、三人吉三、の名台詞
『月も朧(おぼろ)に 白魚の
篝(かがり)も霞(かす)む 春の空・・』
を思い出しながら、白魚のかき揚げを食べるのは
よいもの、で、ある。
この時期の天ぷら、と、いえば、沙魚(はぜ)。
大きく育った、落ち沙魚。
沙魚は、今でも、東京湾や、隅田川、あるいは、本所深川に
わずかに残った掘割で釣れると思われるが、
むろん、食用には流通はしていないのであろう。
と、いうことで、冬を控えたこの時期、
というのも、アリ、なのである。
6時に予約し、内儀(かみ)さんとともに、
出かける。
三筋、というのは、私の住む元浅草の春日通りをはさんだ
南隣の町で、歩いて、5〜6分。
ごくご近所のお店。
もう一軒、ご近所で頻繁に行かせていただき、
また、名店でもあるうなぎや、やしま。
やしまの方は、ご主人とも個人的なお知り合い、
でも、ある。
みやこしも味もよい名店。
ご近所に天ぷらやと、うなぎやのよい店がある、
というのは、まことに有難いこと、では、ある。
雨がぽつぽつ。
傘を差して、春日通りを渡り、ぶらぶら歩いて、
みやこし到着。
白木の格子を開けて入ると、カウンターにもまだ、
先客はいない。
名前をいって、カウンターの一番奥へ。
ビール、サントリーのプレミアム、を、もらって、
お通し。
もずくか、いかの塩辛、どちらかを選んでくれ、
と、いうので、私はもずく酢。
まずは、海老から。
むろん、さいまき、小型の車海老。
最初は塩で。
さいまき海老も、江戸前の天ぷら、鮨やでは
定番中の定番の種。むろん、江戸前で獲れたわけである。
まあ、これはまず100%、今の江戸前、東京都の東京湾内湾には
いない、でのあろう。
もう一匹。
これは天つゆ、で。
次は、いか。
これもまた、江戸前。
天ぷらでも鮨でも、定番中の定番。
すみいか。
小ぶり。
すみいかは、まだ、東京湾にも生き残っている。
(沙魚同様、流通はしていないのであろが。)
次は、きす。
鮨やでも、美家古鮨の系統など、古いところは、
今でも〆てにぎる。
きすは、まだ、木更津あたりまでいけば、
たくさんいる。内湾奥でもいるのかもしれぬ。
さて、本日の、目玉。
沙魚。
ご主人が、松島のもの、といって、置いてくれた。
むろん、宮城の松島であろう。
大きいし、脂ののりがよいのだろう。
旨みたっぷり。
野菜。
左から、小玉葱、蓮根、アスパラ、椎茸。
最後はいつものように、天丼か天茶だが、
私は、天丼。
かき揚げは、芝海老。
江戸前のかき揚げ、と、いえば、
小柱か、芝海老、と、決まっている。
芝海老も、むろん、江戸前で獲れた。
なんたって、芝で獲れたから、芝海老。
今では、リアリティーどころか、
地名だと思う人もいないかもしれない。
実際、芝浦で獲れたのだろうし、
隅田川河口、佃や、今の湊、新川、向こう側は
大川端リバーシティーあたりは、芝海老が
よく獲れることで有名だったという。
いまどき、江戸前の魚介類の復活などをいうのは、
震災以降とくに、アナクロの極み、なのであろう。
もはや、やはり、頭の中で、再構成するだけの方が、
よいような気もする。
ともあれ。
ご馳走様でした。
うまかった。
台東区三筋2-5-10 宮腰ビル1F
03-3864-7374
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