断腸亭料理日記2012

茄子の煮びたし

5月31日(木)夜

今、電子書籍が普及しつつある、のか。

実際のところ、どのくらいのマーケットに
なってきているのか、私自身、数字を持ってはいないのだが、
まあ、増えているのではあろう。

少し前に弊社でも立ち上げており、私もスマホで
そのアプリを入れて、電子書籍を買って読んでみている。

なにを読んでいるのかといえば、いわずと知れた
池波正太郎。

むろん、活字では池波先生の作品は小説、エッセイ、
取り混ぜて、出版されているものは、まず、100%、
買って読んでおり、そのうちの少なくない作品を
複数回読んでもいる。

そういう意味では、電子書籍をきっかけにした、なん度目かの読み直し。

今読んでいるのは『剣客商売番外編・ないしょないしょ』
『剣客商売』とタイトルに入っているが、剣客シリーズとは
ほぼ別の作品。

で、今夜はここに出てくる、料理。


越後新発田の城下町の町道場。
下男の五平老人が、同じくそこの小女である
お福の作った[茄子の煮浸し]で酒を呑む。


そう、茄子の煮びたし。

茄子はこれから、季節、ではある。

で、これはどんな、茄子の煮びたし、か。

作品には、例によって、細かい説明描写は、ない。

普通、茄子の煮びたしというと、皆さんは
どんなものを想像されようか。

私自身、母親などが作っていた記憶もあまりなく、
これだ、というものは思い浮かばない。

越後新発田の町道場の小女が作るもの、
という限定がある。
むろん、凝ったものでは、なかろう。

しょうゆ味の汁で煮ふくめた、冷たい状態のもの、
なのか。

軽く、茄子の煮びたし、を、調べてみると、
やはり、バリエーションは数多い。

これ、というものはなく、作る人によって、
家庭によって様々、なのであろう。
ポイントの一つは、皮をむくかどうか。
もう一つは、揚げるかどうか。

その1.[板前料理]。

これは、皮をむく例。
茄子を火で焼いて、冷水に入れ、皮をむき、
薄味の出汁汁(だしじる)で煮ふくめる。

その2.[家庭の煮びたし?]。

皮はところどころ残してむいて、しょうゆ味の汁(つゆ)で
煮ふくめる。これが作品のイメージか。

その3.[揚げ煮]。
いわゆる揚げ出し。油で揚げて、しょうゆ味の汁で
煮ふくめる。

この3つくらいが、煮びたしのノーマルな
形であろうか。

よし。

どれがうまいか、この3つ、全部作ってみようか。

帰り道、ハナマサで茄子を買う。
ちょっと、安いものがあったので、大きな袋のもの。

帰宅。

まずは、鰹で出汁を取る。

たくさん要(い)るので大きな鍋に湯を沸かし、
ドサッと、鰹削り節を入れ、弱火で3分。
火を止めておく。

出汁を取っている間に「2」の茄子。
半分に切って皮をむく。

ところどころ、残して皮をむく、というのは、
あまりやったことがなかったが、きれいに切るのは
意外にむずかしい。

むいた茄子は、ボールに張った水に晒しておく。
これはあく抜き。茄子が浮いてこないように、上から
小皿をのせておく。

次に「1」の茄子。
網に皮のままの茄子をのせて、強火で焼く。

冷やすための冷水も用意しておく。

焼くのは少し、時間が掛かる。
全体をまんべんなく焼いて、焦げ目が付き、
段々に全体が柔らかくなってくる。

柔らかくなったら、冷水に入れ、冷やす。

冷えたら皮をむくが、ふにゃふにゃ。
そーっと、取って、ヘタの部分を包丁で切り、
ここをきっかけにして、手でむく。

むき残りは包丁で、取っておく。

出汁。

濾して「1」の出汁。
鍋に出汁を張り、薄口しょうゆ、軽くみりんを入れ、加熱。
煮立ったら、皮をむいた茄子を入れ、もう一度
煮立ったら、終了。

これを冷やすのだが、これは洗面所。
水を張って、蓄冷材を数個入れて、鍋ごと突っ込んでおく。

さて。

次は「2」。

この汁(つゆ)はどんなものか。
鰹出汁にしょうゆ、酒、か。

煮立てて、茄子を入れ、煮る。

皮も完全にむいていないし、柔らかくなるのに、
多少時間がかかる。

15分ほど。

柔らかくなって、汁が染みたら終了。

洗面所の「1」の鍋と交代。

「1」は茄子を一つ、皿にのせてラップをし、
さらに冷蔵庫に入れておく。

さて。

最後の「3」。

これは小口切りにして、フライパンで揚げる。

汁は「2」よりも甘目がよいかと、
ちょいと砂糖も入れる。

これは揚げて火が通っているので、
一度煮立てて、終了。

OK。

「1」は、さらに鰹節削り節をふりかける。

[1.板前料理]


[2.ノーマル?]


[3.揚げ出し]


ビールを抜いて、食べる。

順番をつけると、「1」「3」「2」の順。

「1」は出汁が染み、上品で、うまい。

「3」は揚げてあるので、食べ応えがあり、うまい。

「2」は味にポイントがない、というのであろうか。
おろし生姜でも入れてみれば、まだ違うかもしれない。

茄子、というものは、やはり、不思議な野菜、
で、ある。
茄子の実の部分には、ほとんど味がない。

従って、油や味が染みやすい。
油と甘い味噌で炒めたりするのは私も好きだが、
濃いめの味が合うような気がする。

「1」は皮をむいて、ほぼ味のないものに、
きちんと取った出汁をふくませる。
芋茎(ズイキ・いもがら)などで割烹料理として
食べたことがあるが、京料理からのやりかた、であろう。

結論。皮があれば、油あり。
なければ薄味がよい。

しかし、茄子だけ、4本も食べてしまった。
これは、ダイエットによいかも。






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