断腸亭料理日記2012

神田須田町・あんこう鍋・いせ源

1月4日(水)夕

さて。

引き続いて、4日。

4時半すぎ、芝居がはねて、国立劇場から出る。

半蔵門など、なにもない。

ちょいと、小腹もすいたし。
どこがようかろう。

知らなかったが、ここから無料の都バスが、
新宿、新橋、渋谷へ出ている。

私の場合、そちらへ行っても、帰る方向とは別で、
あまり意味がない。

朝来た、半蔵門線でも、ちょいと、タイギ、で、ある。

ならばタクシーか。
神田須田町で、蕎麦!。
まつやにしようか。

内濠通りから靖国通りですぐだろう。
(と、思ったら、2000円弱。ちょいとあった。)

まつや、の、前で降りると、凄い列。

正月もまだ混んでいるのか。

藪はどうだろうか。
路地を入って、店の前までくると、
こちらも、多少短いが、やはり列。

どうしたものか、な。

これ以外となると、あんこう鍋のいせ源

2011年

鳥すきのぼたん

さっき、ぼたんの前を通ってきたら、
暖簾が出ていなかった。

いせ源の前にくると?。


開店は5時、と、書いてある。
あと、15分ほど。

どうするか。

しるこやの竹むら、は、この後ろにあるが、
池波先生は、ここもご贔屓であった。
私の場合、甘いものは嫌いではないが、
このタイミングで、しるこ、でもない。

寒いが、待つか。

内儀(かみ)さんと二人で待つ。

と、5〜6分。
下足番の小父さんであろうか、格子を開けて、
出てきた。

あっ、と、気が付き、

ちょっと、待って下さいね、と
再び、中に入る。

すぐ出てきて、どうぞ〜、と、
招き入れてくれる。

ほいほい、と、入る。

沓脱(くつぬぎ)に雪駄を脱いで、正面の階段をあがる。
よかった、よかった。
たいして待たずに入れた。

あがって、入れ込みの広間。

真ん中のお膳に座って、トンビのコートを
脱ぎ、胡坐をかいて、座る。


お膳の上には、ガスコンロが置いてあり、
このガスコンロはすべて、客はいないが
火が付いている。

この家(うち)の建物は都の歴史的建造物。

窓は硝子なのだが、硝子の外には簾(すだれ)がかけられ、
おりからの強い風に煽(あお)られてパタパタと揺れている。
硝子戸には隙間があり、その風が入ってくるのである。

コンロの火は、寒いので、暖房のかわりに、
付けているのであろう。


私は、お酒。
内儀さんはビール。
お通しは、子持ち昆布。

ここは、メニューはあるにはあるが、
あんこう鍋、以外には、ない。
黙っていても、二人前は、くる。
(あんこう鍋にあん肝やらを足す、つまみに、
あんこうのから揚げやらを頼むか、程度の選択肢である。)


味は甘辛しょうゆの正調東京風。

入っているのは、あんこうの身はもちろん、
あん肝、白くねぎのように見えるのは、東京うど。
三つ葉、椎茸、絹さや、銀杏など。

あんこう鍋というと、茨城の大洗などが
今は名物で、私は食べたことがないが
あちらのものは、肝を味噌に溶いて、そのつゆで
煮込むようだが、ここのものは、この甘辛。

まあ、東京の伝統的な鍋はほとんどのものが、しょうゆで煮込む。
甘いか、どぜうのように甘くないか、そのくらいの、違いであろう。

ぷりぷりの身と皮が、うまい。

食べ終わると、おじや。

雑炊、という人がいるが、私の子供の頃には
家では、雑炊という言葉はなかった。
雑炊は、関西の言葉でなかろうか。

おじや、で、あろう。
落語などでも、おじや、で、ある。

お姐さんに、頼む。

ここの鍋はつゆは少なく、煮詰まっているので
ご飯を入れて、つゆを足してくれる。

生玉子二個、軽く溶き、加え、
これも軽くまわす。

まわした後は、手を触れてはいけない。

玉子の腰を完全に切らないのもそうだが、
かき混ぜない方が、ふんわりと仕上がる。
(などといわれているが、どうせ、酔っ払っているので
どちらでもよいか。)

ねぎをちらして、出来上がり。


足すつゆも、甘辛なので、おじやも、甘辛。

うまいもんである。

ご馳走様でした。
コートを着て、立つ。

階下の帳場で勘定。

出してもらった雪駄を突っかけて出る。


以前から、ここには着物を着て、来たいと思っていた。
いせ源のお姐さんが、着慣れてますね、と褒めてくれたりしたが
初芝居の帰りで、たまたまではあるが、実現した。


これから、寒中、まさにこの店の季節。
その先駆けに来れたのは、よかった。

『こいつぁ〜春から縁起がいい〜わえ』?。

よい年に、なればよいなぁ。





千代田区神田須田町1丁目11番地1
03(3251)1229番

いせ源





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