断腸亭料理日記2012

2012年をふり返って。 その2

さて。

いよいよ、大晦日。

大晦日といえば、こんな川柳がある。

大晦日 首でも取ってくる気なり

大晦日 首でよければやる気なり

あるいは、狂歌。

貧乏の棒も次第に長くなり 振り回されぬ年の暮かな

落語『掛取り万歳』に出てくるものだが、
その昔は皆、ツケで売り買いをし、毎月晦日(30日)に
〆ていたわけだが、払えないと、翌月に、さらに翌月に、
と延ばし延ばし。

いよいよ、大晦日、今日こそは払え!、という
掛取りが元旦明るくなるまで、走り回っていた、
というのが、大晦日の情景であった。

陰膳(かげぜん)の雑煮はよほどひどい借り

なんというのがある。

先の『掛取り万歳』には、払えないから、
亭主が死んだことにする、なんというのが出てくる。

棺桶を持ち出して、この中に亭主が入って、
内儀(かみ)さんは線香をたいてその前で
泣いている、という。

こうすれば、掛けを取りにきた人も
さすがに同情して、催促もいわないだろう、と。
(まあ、それはそうであろう。)

こんなこと、まさか、落語にしても大袈裟、と、
思っていたら、前記のような川柳もあった。

これは、翌、元朝、
雑煮を陰膳として出しているのは、
よほどのひどい借金があったのだろう、というものだが、
こんなことをしていたのも意外に普通のことだったのかも
しれない。

さて、まあ、与太話は置いておいて、
今年を振り返って、最後は「料理日記」なので、
食いもののことを書かねば、と考えた。

いろいろ考えると、やっぱり、普通のものを普通に
うまく作ったものが、一番である、ということに
たどり着く。

まあ、これは今年に限ったことではなく、
昔からの私の持論ではある。

珍しいもの、高価なもの、有名な料理人が作ったもの、等々
世の中には、様々な、うまい、といわれている食い物がある。

珍しいものがうまいものか、といえば、
そんなことはないのは自明であろう。

名物にうまいものなしという言葉も昔からある。

むろん、うまいものもあろうが、
珍しいと、うまい、とは別のことである。

高価なもの。

これもそう。
魚介類など、日本では特にこれにあてはまる。

例えば、どこどこのまぐろ。

生の近海まぐろではなく、どこどこだから
高くなる、という現象。

有名産地だけ独り歩きし、実際の味ではなく、
その看板で、高い金を出す。
これは本末転倒。

料理人も同様だが、グルメマスコミ、という輩(やから)
が主としてこの犯人。

TVでやってたから、うまい、というのは、
やめた方がよい。

あくまで、自分の舌で食べてうまいのかどうか、で、ある。

結局、かつ丼でも、なんでもよいのだが、
普通のものを、普通に上手に作ったものが
一番うまい、のである。

今年であれば、たとえば、

大根と油揚げの鍋、大根ばかりが並ぶが、ふろふき大根

こういうもの、で、ある。

別段、特別な大根でなくてよい。
普通にスーパーで売っているものでよい。

油揚げだって、有名な豆腐やのものでなくても
なんらかまわない。

もちろん、浅草米久のすき焼もうまいし、

イタリアローマの星付きレストランだって、うまいには違いない。

また、新橋しみづの鮨

私がいく鮨やの中では最もうまいと思っている。

一方で、これだけの値段を出せば、
というところでの、比較であり、ちょっと
これらは、次元が違ってくる。

やはり、普通のものを普通にうまく作ったものが、
最もうまい、ということである。

さてさて。

そんなことで、大晦日。

2012年の断腸亭料理日記も、そろそろお開きとしよう。

本年も駄文にお付き合いをいただき、深く感謝。

明年が皆々様にとりまして、佳き年となりますよう祈念し、筆を置く。

ご愛読、感謝。

断腸亭錠志 2012年大晦日






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