断腸亭料理日記2012
4月30日(月)
さて。
連休。
今日は、思い付いて、
ご近所、上野の山の東京国立博物館で今やっている、
「ボストン美術館 日本美術の至宝」へ行くことにした。
日本にあれば、国宝級のものがいくつもきているという。
特に、曽我蕭白の雲竜図が話題。
天気もよい。
自転車で出かける。
自転車に乗ると暑くなりそうなので、
手拭いと今年初めて、扇子も持って出る。
拙亭のある元浅草から真っ直ぐ北へ上がり、
浅草通りも越えて、合羽橋通り。
左に曲がって、清洲橋通り、昭和通りも越えて、
真っ直ぐ。
合羽橋通りというのは、道具街の南北の通りではなく、
道具街の中央を東西に突っ切っている比較的狭い通りのこと。
これは江戸の頃からある歴史のある通り。
上野の山、寛永寺から浅草浅草寺へ
東に真っ直ぐつないでいる。
将軍が寛永寺へ御成になった後、浅草寺へまわるための
御成街道であたったのである。
御成街道の合羽橋通りは、今は、JRの線路に突き当り、
跨線橋、に、なる。
跨線橋上まで坂を上がる。
流石に、こいではあがれないので自転車を降りて押して歩く。
ここは上野駅の北側にあたる。
下を山手線や京浜東北線が走る跨線橋の上にあがると
吹き渡る風が気持ちよい。
橋を渡ると、噴水広場と国立博物館の正面の間の通りになる。
噴水広場は旧寛永寺の本堂である根本中堂跡で、
国立博物館は寛永寺住職である、上野の宮様が住み暮らした、
本坊の跡。
江戸の頃の寛永寺の中心部であったところが、
ここ、ということになる。
自転車を博物館の門の脇にとめ、入る。
チケットはあらかじめ、家でWebで買って、
印刷をしてきた。
混んでいる、との情報もあったが、まだまだ。
ここで大混雑になると、平成館も入場止めで
列になっているが、今日は列はなし。難なく入れる。
やはり、自転車で走ってくると、汗が出る。
手拭いで汗を拭き、扇子をパタパタ。
チケットを見せ、階上へ。
音声ガイドを借りる。
最近はきちんと観るために必ず借りることにしている。
さて。「ボストン美術館 日本美術の至宝」。
NHK主催で、TVでも宣伝されているので、ご存知の
方も多かろう。
明治初期、お雇外人としてきていた、フェノロサ、
その後の岡倉天心らが集め始めた、ボストン美術館の
日本美術コレクションの里帰り。
明治期に、大量に海外に流出した貴重なものが、
ボストン美術館に集められていたという。
これらの品々、日本人の心情とすれば、明治初期の混乱に乗じて
安く買い叩かれて、持っていかれたもの、と思われがちである。
しかし、そういう側面ばかりではない。
岡倉天心を含めてボストン美術館で体系的に収集され、
きれいに保存されていたことに恨みこそすれ、
我々日本人は感謝すべきことだと思われる。
明治になり、廃仏毀釈の運動から、寺の地位が急に下がり、
寺の経営が立ち行かなくなる。
あるいは、大名家が明治になり、華族とはなったが、
それでも食うに困り、売りに出したという背景。
また、江戸期の浮世絵などは、明治期主要な輸出品であった
日本の陶磁器を包む紙に使われた。
それが欧米で北斎など日本の浮世絵が
評価されたきっかけになっているのは周知のこと、で、あろう。
日本人自身が気が付いていなかった日本美術の
レベルの高さを彼らに気付かせてもらった、という
側面が強いといえよう。
さて。
展示は六つの章に分かれている。
(以下、権利上画像を載せられないので、絵はこのページをご参照下されたい。)
第一章「仏のかたち 紙のすがた」から。
これは、奈良時代からの仏画、仏像のコレクション。
奈良、平安時代の仏画などは、おそらく日本にあれば国宝であろう。
以前に、たまたま出張でいった京都で東山を歩いていると、
青蓮院門跡の御開帳に出くわした。
この時観た、平安時代の不動明王の仏画。
これは国宝であった。
それから、鎌倉時代の快慶の弥勒菩薩立像。
まあ、これも国宝級なのだろう。
しかし、私自身、残念ながら、この分野ほとんど素養がない。
さらっと、観て、次。
第二章「海を渡った二大絵巻」。
『吉備大臣入唐絵巻(きびだいじんにっとうえまき)』
(平安末期)と『平治物語絵巻』(鎌倉中期)二つの絵巻物。
『吉備大臣』の方は、奈良時代に遣唐使で唐に渡った
吉備真備(きびのまきび)の物語を絵巻物にしたもの。
物語自体は史実ではなく、後年に作られた創作だが、
このお話が奇想天外、まるでSFのようなもので
ちょっとおもしろい。
せっかく行った唐なのに、なぜだか真備はいきなり高い楼閣に
閉じ込められ様々な難しい問題をいくつも出される。
そこに、年代の錯誤があるのか、実際には同じ頃に唐に渡ったはずの
阿倍仲麻呂が既に死んでいることになっており、幽霊になって現れる。
出された難題を吉備真備がRPGのように阿倍仲麻呂の
幽霊に助けられて、クリアしていく、というお話。
そして、絵のタッチが見どころ。
ちょうど、時代として同じ頃の、有名な鳥獣戯画。
蛙や兎が相撲をとっていたりする、漫画の元祖、
などといわれたりする、あれ、で、ある。
あんな感じなのである。
ちょいと、軽くてユーモラス。
『平治物語絵巻』の方は、平安末期の源平争乱である
平治の乱の戦いを描いた、鎌倉時代制作の合戦の絵巻。
こちらは、合戦を精緻で美しく描かいた、美術品としての
価値、ということになろう。
解説によれば「合戦絵巻の最高傑作」ということ。
やはり、なんでこんなものが海外に流出してしまったのか、
というのが気になったりする。
『平治物語絵巻』江戸期の所有は、譜代大名の本多家と
いうことだが、明治以降、美術市場に出た、という。
この本多家も明治には華族になっているが、
やはり、食うに困って、ということであろう。
明日につづく。
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