断腸亭料理日記2011
談志師匠が亡くなって、もう一度、
落語とはなにか、を、考えている。
昨日この図を書いてみた。
古典落語の要素を分解してみると、こういうことに
なるのであろうという図、で、ある。
この中で、昨日説明しなかったものが一つある。
それは「落語の了見」。
この言葉は、談志師匠も使っていた言葉だったと思われる。
数日前の、北野武氏について、この言葉を使った。
「落語の了見」というのは、私の理解は「業の肯定」に
近いコンセプトだが、多少広い。
この図はまだまだ、未完のものであり、仮説である。
落語には「業の肯定」以外にもたくさんの要素があるのでは、
と、書いた。
あまたある噺を分解し、分析しなければ、わからないことではある。
また、その前に「業の肯定」そのものも、もう一度きちんと
定義する必要もあろう。
例えば、落語には、やはり談志師がよく言っていた
コンセプトに、『与太郎』、というのがある。
『与太郎』とは、むろん江戸落語に登場する、愚か者の
キャラクターである。
師がいっていたのは、与太郎は馬鹿ではない。
確信犯として、働かない、悩まない、『なにもしないということを
している』、という。
『なにもしないということをしている』は、かなり哲学的である。
英国のものであるが、確か「クマのプーさん」もそうであった。
この『与太郎』は「業の肯定」とも違うコンセプトのように
思われる。
まあ、これは一例だが、落語を分解すれば、とても重要な
コンセプトが存在している。
こういったことは、もっと丁寧に分析分解をしなくては
ならない。
そこで、それはまた、別の機会として、今回はこの図の
一番外側のことを書いてみたい。
「江戸の風」、で、ある。
「江戸の風」というのは談志師の「最後の根多帳」で書かれていた
言葉である。
師が、最後まで、あるいは、最期になって
いっていた言葉、と、言ってもよいように思う。
落語を落語たらしめていること。
着物を着て、座布団に座って、手拭と扇子を持って、
噺をする。
これが「江戸の風」の入り口。
むろん、師のいう「江戸の風」はもっと深く様々なことを
含んでいる。図で私は「江戸伝統演芸」と書いたが、
江戸を感じさせ、江戸から続いている伝統演芸である、と
解釈している。
例えば、立川流では二つ目や真打の昇進試験では、
踊りを踊れる、歌が唄える(むろん、小唄、都都逸など
江戸のもの。民謡を唄え、ということもあった。)
それに、講談ができる、という課題がある。
これなどは「江戸の風」のわかりやすい例かもしれない。
最初の回に書いたが師にはものすごくかっこいい
「小猿七之助」という講談ねたの噺がある。
異端児ぶりだけが取り上げられて、
一般にはほとんどそういうことは言われないが、
談志師の芸というものは、落語はむろん、落語にとどまらず、
実はそうとうに高いレベルのものであったのだと思う。
(思う、というのは、残念ながら、談志師より前の
名人というのを落語以外は知らないからである。)
これには今回談志師が亡くなって、歌舞伎の中村勘三郎氏の
コメントを引いておきたい。
なにか、とっても難しい、半間(はんま)、という間(ま)が
あるらしいのだが、その間を舞台で勘三郎氏が演じた際に、
間髪を入れずに、うまい!、と掛け声がかかった、という。
誰だろう、最近は、この間がわかるのは、掛け声をかける大向こうでも
いないのに、と、その人を見ると、談志師であった、という。
難しい、間、が、わかって、それも絶妙のタイミングで
ほめる、という。これ自身がもう既に、芸。
落語は、江戸伝統芸の一つでもあり、歌舞伎などと同様に、
落語家はこれを継承し、お客に見せるものである、と。
これが落語の最低限で、すべての落語に共通する要素である、
と、考える。これがなければ、落語ではない、と。
立川流に限らず、今でも若手の落語家は、
踊りだったり、歌は、習いに行く。
噺の途中の手のしぐさ、などは、踊りを踊れるようになれば、
美しく見えるようなしぐさができる、という。
私など、都都逸すら唄えぬし、踊りもできない。
ただ、志らく師に落語を習ったおかげで、落語のリズム
というものを教えていただいた。
これはプロの落語家もあまりいわないし、
一般の方も気付いていない方が多いと思う。
落語の喋り方にも、伝統の喋り方いうのがある
落語は、例えば、TVドラマだったり、舞台演劇などと
おなじような喋り方をしても、落語に聞こえないのである。
この落語のリズムを身に付けることが、まず落語という芸を覚える
第一段階である、と、志らく師には教えていただいた。
わかりやすくいうと、例えば、古今亭の喋り方というのがある。
これは古今亭志ん朝師のリズム。
古今亭門下はもちろん、他にもこのリズムで落語を話す
落語家は、今でもとても多い。
実際にやってみると、このリズムはけっこう簡単で、
素人にも真似がしやすいのである。
これだけで、落語に聞こえるようになる。
実際には、人それぞれ、落語家にはそれぞれのリズムがあり、
談志師などは、若い頃のものは別として、とても癖があり、
志らく師には、真似してはいけない、と、いわれたりもしていた。
あるいは、こんな例もある。
寅さんの口上。
やけのやんぱち、日焼けのなすび、色が黒くて食付きたいが、
あたしゃ入れ歯で歯が立たないよ、と、きた、、。
啖呵売(たんかばい)、などというが、あんなものも
独特なリズムがある。
(談志師も好きだったが、蝦蟇の油売りなどもそう。)
これらは、皆、日本の伝統芸としての話芸の喋り方のリズム、
なので、ある。
今日はここまで、つづきはまた明日。
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