断腸亭料理日記2010
3月24日(水)昼
名古屋出張。
と、なると、なにを食べよう。
そもそも、私は、97年春から、99年秋まで、2年半、
34〜5歳の頃であったが、名古屋に単身赴任をしていた、
のであるが、名古屋の味覚、と、いうのは、おもしろい。
一般には、赤味噌文化。
あるいは、あんこをはさんだトースト。
きしめん?。
むろん、他にも色々な、名物はある。
そんな中でも、名古屋の味を、ひと言でいえば、
濃い、と、いうことであろうか。
これは、甘さ、だけではなく、塩分の濃さもある。
また、甘辛の濃さだけではなく、ダシ、旨味、
というものについても、濃い、と、いえる。
この、濃い、と、いうことに関して、
意外に知られていない名物は、カレーうどん。
名古屋は、蕎麦文化ではなく、うどん文化の地域、
で、あるが、東京の蕎麦やのカレーそば、なんというもの
とは、比べ物にならぬほど、うまい。
違いは、肉が豚ではなく、牛、で、あるのだが、
ポイントはそんなところではなく、旨味が、濃い、のである。
おそらく名古屋は、日本一、カレーうどんがうまいところ、
と、いってよいだろう。
旨味が濃い、という意味では、きしめんなどは
よい例かもしれない。
きしめんは、いろいろな食べ方があるが、
まあ最も一般的なのは、やはり、かけ。
温かいつゆで食べる、きしめんであろう。
しょうゆのつゆで食べるわけだが、名古屋の温かいきしめんには、
立ち喰いなどでも、(鰹)削り節をコテ盛りにのせる。
これが、うまい。
旨味に、どん欲な人達、と、いえるような気もする。
これが私が、名古屋の味覚で学んだことである。
東京の味覚というのは、はっきりいえば、
濃口しょうゆ、のみ。
京都などの味覚、と比べてはむろんのこと、
こと旨味、と、いうことに関しては、名古屋人の方が、
どん欲であろう。
濃口しょうゆ、と、いうものは、薄口しょうゆ、
たまりじょうゆ、などとも比べて、最も旨味成分が多い。
東京は関東ローム層という赤土のおかげで、野菜に旨味が少ない。
それで濃口しょうゆが生まれ、定着し、濃口しょうゆ文化になった、
と、いわれている。
東京は、うまいしょうゆのおかげで、しょうゆ以外の、
旨味を追求する食文化にならなかった、という
言い方もできるのかもしれない。
なんでもかんでも、しょうゆをぶっかける、
と、批判を受けるが、おかげで、と、いうべきか、
さっぱりした、うまさ、という味覚が東京では
生まれている。
フランス料理など、欧米は、足し算の味覚、
というが、日本料理は、削ぎ落し、素材の味に
とことんまで、迫る、引き算の味覚、という
言い方をされる。
まあ、これはさっぱりを求める東京の味覚、よりも、
日本料理を代表する、京料理のこと、と、
いってよいのだろうが、ゴテゴテと濃くしなくとも、
うまいもの、というのは、むろん多くあるし、
むしろ、そちらの方が、奥が深い。
名古屋の味覚は、まあ、こいうものからは、
遠く離れている、といえるのだろう。
だが、カレーうどんをはじめ、濃い、
方向を目指している食い物には絶大な威力を発揮するのが、
名古屋、で、ある。
それで、うなぎ蒲焼、味噌煮込みうどんは、
うまい。
(いや、これでは、私がこの名古屋名物のなかでも
好物として、この二品を挙げる理由は、これだけでは、
本当は説明しきれていないのだが今日はこの辺でやめて、
先に進める。)
味噌煮込み、で、ある。
大名古屋地方の味覚を代表する、赤味噌を使った
料理の四番バッターは、なんといっても、味噌煮込みうどん。
少なくとも、私にはそうである。
さっきから書いているが、名古屋の味覚のコアな部分は
濃さ、で、ある。この濃さが遺憾なく発揮されているものの一つが
味噌煮込みうどん。
中でも、この「山本屋本店」のものは、No.1で、ある。
(前にも書いているが、名古屋にはもう一系統、
東京にも進出している、味噌煮込みのチェーンがあるが、
名前が同じ山本屋なので注意が必要である。)
「山本屋本店」の、本店は名古屋駅
(名古屋では名古屋駅のことを名駅(メイエキ)と呼ぶが、
単なる通称かと思うと、大間違い。なんと、
駅のある場所の町名まで、名駅、で、ある。)
からは、さほど離れていない、中村区太閤通という、
旧中村遊郭の大門前、にあり、名古屋駅の新幹線側の地下街、
エスカ、にも支店があるので便利、で、ある。
昼時をすぎていたので、すんなり座れた。
名古屋にいたころは、ここでの頼み方は、
決まっていた。
いや、私でなくとも、地元の男の多くは、こう頼む。
一半(イチハン)ご飯付き。
一半というのは、麺が1.5倍。
これにご飯をつける。
そんなにデンプンが食べたいですか?!
と、思われるかも知れぬが、これがよい。
が、まあ、今の私には、これは食べすぎ。
牡蠣、コーチン入り(最高グレード、で、ある。
たまに来るのだ、うまいものが食いたい。)
、、、と、、、えーい、ご飯も付けちゃおう、、、。
まず最初に、お新香がくる。
これはおかわり自由で、すべての味噌煮込みの鍋に
ついてくる。
この店は、濃口しょうゆはテーブルに置いていない。
かわりにおいてあるのが白しょうゆ。
白しょうゆ、というのは濃口、薄口などと同様に、
JASでも規定されている、れっきとした伝統のしょうゆ。
大豆の他に、小麦が主原料で、薄口よりも色はもっと薄く
むしろ、透明に近い。全国でも生産量はわずかだが、
やはり、主として名古屋地方で作られているもの。
(これに出汁を入れてさらに発酵させた白だし、という
調味料もある。)
名古屋地方の飲食店でも、一部鮨やなどで、たまり、
の、場合があるが、ほとんどのところで濃口しょうゆは
普通に置いてあったと思われる。
この店は、あえて、白しょうゆ、ということなのであろう。
白しょうゆをかけて、お新香をつまみながら待つ。
しばらく待っていると、鍋がきた。
のであるが、お姐さんが、前に置いたところで自ら、
頼んだものと違う、ということに、気が付いたらしい。
牡蠣、コーチン、、でしたよね?!と、お姐さん。
はい、と、私。
たいへん、申し訳ありません。
作り直して参ります。
お姐さんは、こちらがそこまで思わなくとも、
思うくらい、たいへん恐縮している。
こういう時の店の人の態度というのは、東京は、
とてもわるい。それで、そこまで、しなくとも、
と、思ってしまうのである。
腹も減っているので、お新香を食べきってしまった。
おかわりをもらおうと、お姐さんに頼むと、
目の前の皿に、箸で取って盛りつけてくれる。
この時、気が付いたのだが、さっきから、私は、お新香、
お新香、といってきたが、こちら、名古屋地方では、
お新香ではなく、お漬物、というのが一般的。
(だれか他の客がお姐さんにいい直されていた。)
お新香という言葉は、新しくて、よく漬かっていない?
あるいは、旨み欠ける?感じなのか、一般的には、
あまりいい印象を与えない言葉ようである。
きた。
ふたをした状態。
この名古屋の味噌煮込み用の土鍋のふたには、
空気抜きの、穴がない。
なにかというと、これ、こちらでは、取り皿にする、
のである。
知らないで、取り皿下さい、などといえば、
丁寧に、教えられてしまう。
ねぎは、青い部分と白い部分が両方ある、名古屋式の
長ねぎ。
最初は、生玉子はくずさないで食べる。
ある程度食べて、玉子と赤味噌の混ざった味を
たのしむ。
あらためて味を書くまでもない。
濃い出汁で、さらに赤味噌の味。
また、牡蠣と赤味噌というのも、絶妙の相性、
で、ある。
さらに、この濃い汁が、ご飯に合うこと
夥(おびただ)しい。
いけないと思いながらも、ご飯をおかわり。
ここはご飯もよく炊けているように思う。
腹がはち切れるほど、食べてしまった。
久しぶりに食べる名古屋、山本屋本店の味噌煮込みうどん、
やはり、そうとうに、うまい。
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