断腸亭料理日記2009
6月7日(日)夜
冷汁(ひやじる、もしくは、ひやしじる)と、いうものがある。
私としては、もともとは、池波レシピ。
仕掛人藤枝梅安に登場する。
「梅安最合傘」の巻の「さみだれ梅安」。
日本橋の人形町辺。
浜町掘に近い、富沢町の蕎麦やの二階。
『鰹のなまりを煮崩して、なすや、きゅうりも入れた、
冷やし汁、それから瓜もみ。
そんなものが、その蕎麦屋の二階で、出た。』
これを再現するところから始まっていた。
生鰹節を煮崩す、という方法で作ったのだが、
今一つ、ピンとこなかった。
そこで、そもそも、冷汁というのはなんであるか、を
調べてみたのである。
そうすると、なんでも、九州宮崎あたり(他にも、
秩父、北関東にもある料理らしいが。)の郷土料理で、
魚の干物などを焼いて、崩して、ダシにし、焼き味噌、
あたり胡麻、きゅうりを入れて、冷やしたもの、
ということがわかってきた。
結局、魚は、ダシ、なのである。
生鰹節を煮崩したといっても、ただ崩したのではなく、
煮出す、といった方が正しいのだろう。
なん回か作っていくうちに、そんなことがわかってきた。
そこで。
昨日の、鰹一本。
これのアラ、で、ある。
頭と、中骨。
頭は、半分に割って、くっついている内臓も
きれいに取る。
実際は、これは、たいへんな作業、で、ある。
鰹という魚は、おろしてみるとわかるのだが、
大量に血が出てくる。
刺身にしても、中骨に接している部分が血合いになるが、
ここはできるだけきれいに取った方が、うまい。
中骨のまわり、あるいは、頭もこの血を丹念に、洗う。
そして、一度、熱湯をかけて、いわゆる霜降りにして、
水洗い。
これを、大きな鍋に入れ、アクを取りながら、
文字通り、煮崩れるくらいに、よく煮出す。
よく洗っても、まだまだ、血の残っている部分はある。
これがアクになり、苦み、などに通じると思い、
アクはよくすくう。
これを土曜日の晩からやっておいた。
頭をはじめ、アラなので、小骨もたくさん入っており、
これは取れるものは、事前に取っておく。
日曜の夜、もう一度、火を入れ、
ここに、焼いた味噌。
味噌は、普通の信州味噌だが、アルミホイルにのせて、
オーブントースターで、軽く焦げ目が付く程度、焼く。
焼く意図、というのは、味噌くささを抜くため、と、いう。
今、味噌汁を作るにしても、味噌を入れてからは、
煮立てない、というのが常識になっている。
味噌にはアミノ酸やらのうま味成分や、身体によい微生物
が含まれており、これを失くさないために煮立てない。
先の味噌くささ、と、いうのは、これではないのかと
思っている。(つまり、焼く、というのはあえて、うま味を
飛ばしている、ということにもなりそうであるが。)
また、宮崎の人にいわせると、
冷汁は味噌汁を冷やせばよいというものでもない、らしい。
ダシも違うが、このあたりの味噌の味も
その所以(ゆえん)かもしれない。
ともあれ。
焼いた味噌を溶き入れる。
ここに、あたり鉢であたった、白胡麻。
豆腐は、木綿一丁を手で崩しながら入れる。
ここに、残っていた、瓜の雷干し、さらにこれだけでは
量が少ないので、きゅうりを塩もみにしたものを入れる。
これで終了。
あとは冷たく冷やすだけ。
冷えたら、完成。
よく煮出しただけあり、なかなか、うまい冷汁になった。
瓜やきゅうりは、別段全体の味には関係ないが、
浮き実、と、いうのか、味に変化が出て、うまい。
(茄子もやってみたが、きゅうりの方がよいように思われる。)
翌日。冷蔵庫に入れておき、また、食べた。
冷蔵庫では煮凝り状に固まっていた。
これは、ゼラチン質がつゆに出ている、と、いう証拠。
この日は、大葉を散らした。
大葉も、たくさん入れると、さっぱりし、うまい。
一緒に作ったのは、ヒジキの煮付け。
土日、食べて呑んで寝て、を繰り返し、
しばらく、ローカロリー食にしなくては、という
思い、で、ある。
これから夏、冷汁は是非、お勧め。
魚は焼いた干物でなくとも、むろん、
今日のような鰹のアラでも、ダシの出る魚ならば
何でもよいと思われる。
ポイントは、よーく煮出した濃いダシ、で、あろう。
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