断腸亭料理日記2009
7月23日(木)昼
午後から外出。
少し、時間があったので、昼は市ヶ谷駅の向こう、
九段のうなぎや、阿づ満や、へ、行ってみようと、思い立つ。
ここについて、最近、読者の方からメールを
いただいていたのである。
界隈では、名の知れた老舗。
私も一度くらいは、いったことがあった。
市ヶ谷駅から靖国通りを九段方向に歩き、
ちょうど、一口坂上の信号の角、右側。
江戸の地図
前にもこの地図は出したが、この真ん中、
「三番町通」と、あるのが、今の靖国通り。
この地図で、その三番町通、の、ちょうど右端が、
今の、一口坂上の信号だと、思われる。
現在、ここは、九段南、で、あるが、以前は、この通りの
名前どおり、通りをはさんで、駅まで両側が、
三番町であった。
小さな店、で、ある、
店に入り、一人、と、いうと、お煙草は?
というので、吸います、と応えると、じゃあ、
お二階に、というので、トントン、と階段を上がる。
一階はテーブル席。
二階は、座敷。
一時すぎ、二階もお客も引き始めており、
奥のあいている座敷に案内される。
座敷の奥には、大きな屏風。
この屏風は、歌舞伎の演目を描いたものか。
ちょっと見には、浮世絵か、役者絵のようだが、
よく見ると、芝居の一場面と、演目、配役が書かれたもの。
ちょうど、劇場の前に立ててある看板のような体裁、で、ある。
この屏風に描かれた演目名は、
「松竹梅湯島掛額(しょうちくばいゆしまのかけがく)」。
(、、、だったと、思う。メモってきたわけではないので、記憶
で、ある。また、私はこの演目を観たこともないので、
ストーリーなど、詳細は知らない。)
実は、これは、帰ってきてから、調べてわかったこと。
この、阿づ満や、は、定かではないようだが、創業は、
文化年間ともいう。震災前までは店は赤坂にあったというが、
その後、この地に移転してきたという。
おもしろいのは、現ご主人。
四代目、ということであるが、なんでも、
既に引退はされているが、本当の歌舞伎役者であったということ。
それも、名題、幹部までなられた方、と、いう。
名前は中村吉之助(二代目)。
(私は、リアルタイムでは、知らない。)
なんでも、初代吉右衛門(当代吉右衛門のお爺さん、
松本白鴎は娘婿)がこの店を贔屓にしていた縁で、
初代吉右衛門に入門したという。(上記ページでは
『幕内では「うなぎや」の愛称で親しまれていた。』というのが
おもしろい。)
中村吉之助を襲名し、名題に昇進した舞台が、
先の「松竹梅湯島掛額」。女形で、役は、八百屋お七
だったという。
(と、いうことで、うろ覚えであったが、
先の屏風、おそらく、この時のものだったのだろう。
吉之助、の、名前は覚えていないが、吉右衛門の名前は
屏風に書かれた配役の中にあったように思う。
また、絵は、死装束をつけた人物と
丸い棺桶があったのは、覚えている。
おそらく、これが八百屋お七、だったのだろう。)
ともあれ。
あぐらをかいて座り、
うな重と、肝吸いを頼む。
待ちながら、件(くだん)の屏風をぼんやりと眺める。
(わりにじっくりと、眺めていたので、覚えていたのである。)
しばらく待って、うな重がきた。
お重のふたを開ける。
やっぱり、いつも、この瞬間だけは、心躍る。
山椒をふって、食べる。
さっぱりめ、で、あろう。
なかなか、うまい。
お新香も、大きめに切られた、大根のぬか漬けがうまい。
食べ終わると、お茶を差し替えてくれる。
ゆっくり飲んで、勘定は一階。
名物女将に、丁寧に送り出される。
九段、阿づ満や、四代目のご主人は、現役時代、
うなぎやと、呼ばれた元女形の歌舞伎俳優。
なにか不思議な、うなぎや、で、ある。
TEL:03-3261-4178
住所:千代田区九段南4-5-12
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