断腸亭料理日記2009
1月31日(土)夜
さて、土曜日。
毎週、同じようなものなのだが、
夜、なにを食べるのか、内儀(かみ)さんが聞く。
自分から、これが食べたい、という場合もあるが、
今週は、なににするの?と、聞く。
そうだな。
洋食、根岸の香味屋、はどうだろうか。
だいぶご無沙汰だが、少し前から、
行きたい、と、思っていたのであった。
洋食や、と、いえば、私の行動範囲では、浅草六区のヨシカミ。
同じく観音裏のグリルグランド。
まあ、この二軒がいつも通っているところ、で、ある。
グリルグランドのミックスフライは、日本一だと思うし、
ヨシカミは、むろんうまいが、なんといっても、居心地がよい。
東京の洋食。
東京の名物を挙げろというと、うなぎ蒲焼、江戸前鮨、
その次には、洋食、が、くるであろう。
銀座の煉瓦亭は明治28年の創業。
東京の洋食は、この頃から、大正時代に流行した。
そして、今もその歴史は脈々と受け継がれている。
昨年は、今まで、それぞれ別々の理由だが、
ほとんどいったことがなかった
老舗二軒にもいってみたりもしている。
日本橋たいめいけん。
と、くれば、やっぱり、根岸の香味屋は外せなかろう。
大正14年創業という歴史も、味も存在感も
東京を代表する洋食や、といって、よいであろう。
私の住んでいる、元浅草から根岸、というのは、
距離的には、どうであろうか、観音裏とも
大差なく、さほどでもないのだが、ちょっと、
いかない、場所、では、ある。
根岸とは、今、最寄の駅はどこかというと、
日比谷線入谷、JR鶯谷。
その昔は、上野の山の向こう側の
明治の俳人正岡子規も住んだ、風雅な里。
緑も多く、大店の寮(別荘)、隠居所、
お妾さんなどが住む、、、。そんなところであった。
それが、明治末から、大正にかけて
芸者置屋35軒があったというと、東京でも名だたる
花柳界になった。
そして、その後、、、、
今は、どうであろうか。
道が、曲がりくねった住宅の密集地、、?
(江戸の頃、そういう風雅なところであったので
町、ではなく、浅草やら下谷、のように、区画整理が
されておらず、今もって、道は細く、曲がりくねっている。
まあ、これは、なにも、根岸に限ったことではない。
つまり、江戸の頃、町ではなかったところ、
たとえば、今の言問通りから北は、同じこと、で、ある。)
むろん、根岸も、御行の松、など往時を偲ぶものは
なくはないが、どうも、他になにがあるか、
というと、まあ、三平堂、海老名家があるくらい?
で、あろうか。
従って、根岸はついでにくる、というような
ところでもない。
また、香味屋は、鶯谷、入谷の両駅からも少し離れている。
ともあれ。
ここは、予約をするまでもなかろうと、
7時頃、出かける。
この距離なら、タクシー、で、ある。
春日通りで車を拾い、、ほんとは、清洲橋通りから、が
よかったような気もするが、昭和通りから、と
いってしまった。
昭和通りを北上し、言問通りを越え、二つ目の信号を
左折。これが柳通り。
一つ目の信号。
これが、金杉通り。
古くは、こちらが、三ノ輪へ向かう本通り、で、あった。
さらに、直進。
香味屋はすぐ、左側に、ある。
この柳通りはこの先、左にカーブし根岸四丁目の交差点。
角には、こごめ大福の、竹隆庵岡埜の本店。
この交差点を直進すると、道は細くなり、路地に。
そして、台東区も終り、荒川区東日暮里に、なる。
今、このあたりを見る限り、
どこが花街であったのか、その名残はほとんどない、
と、いってよかろう。
洋食やの香味屋やら、和菓子やの岡埜などがあるのが
まあ、いえば、痕跡、ということになるのかもしれない。
このあたり、今書いたように、道が、曲がっていたり、
細かったりで、どうも覚えずらいのである。
今日も、タクシーで降りるところを間違え、
少し、探してしまった。
たどり着いた、香味屋。
ドアを開けると、外からはそうは見えぬが、
中は随分と大きく見える。
天井が高いせいだろうか。
二人、というと、二階へ案内される。
白を基調とし、モダンな店内。
コートを預け、座る。
周りを見渡すと、特段着飾ってもいない、
家族連れ、という人々もいる。
これこそ、下町の洋食店。
土日というのは、お爺さん、お婆さん、も含め、
小さな子供も一緒に、一家でこういう所に、
食事にくる。
これが下町らしいところ、で、ある。
ビールをもらい、さて。
なににしようか。
行き着け、ではない、洋食やにくると、いつも、
頼み方の、基本は決まっている。
料理と、白いライス、ではなく、味付けご飯。
それも好物の、チキンライス。
メニューを見ると、ここでは、
チキンライス、という名前ではない。
チキンピラフ。
これにしてみよう。
それと、料理は、、
定番メニューではなく、おすすめ、に、あったもの、
牛タンのクリームコロッケ、デミグラスソース。
これ、うまそう、で、ある。
ここは、デミグラスソースが、確かうまかった。
内儀(かみ)さんは牡蠣のグラタン。
先に、福神漬やららっきょやら、薬味が出る。
これ、今は一般には、カレーライスに付いてくるものだが、
ピラフでも付いてくる。
資生堂パーラーでもそうだったが、
昔は、味付きのご飯ものについてくるもの、だった、、?
なにか、そういえば、子供の頃は、そうだったような
そんな気もする。
例によって、内儀さんと、この、らっきょなどをつまみながら、
ビールを呑みながら、待つ。
と。
きた。
チキンピラフ。
見た目はチキンライス、と、かわりはないように見えるが、
食べてみる。
ふむふむ。
炊き込んでいる、のであろうか。
味はケチャップライス炒めに近い味だが、
確かに、炒めた感じではなく、ふんわりと、上品に仕上がっている。
ただし、味は、そこそこ、濃く、
うまい。
銀座煉瓦亭も確か、チキンピラフであったが、
やはり場所柄なのか、もう少し、上品な味、で、あった。
牛タンのコロッケもきた。
付け合わせはニンジンとブロッコリー、マッシュポテト。
下に、デミグラスソースが敷かれ、その上にコロッケ。
盛り付けもきちっとした感じで、うつくしい。
こちらも食べてみる。
クリームコロッケに、柔らかい牛タンが入っている。
やっぱり、記憶通りに、デミグラスソースがうまい。
内儀(かみ)さんの牡蠣のグラタン。
牡蠣の貝殻に牡蠣の身入りのグラタン、で、ある。
こちらも食べてみる。
ふーむ。
これもよいぞ。
ベシャメルソースが、とてもクリーミー、
繊細、というような言い方が、合っているのかもしれない。
この繊細さ、と、いうのは、先のデミグラスソースにも
いえる、ような気がする。
さらに、形容詞を付け加えると、端正、真摯、
背筋が伸びている、そんな感じ。
〆て、どれも、うまい。
二人で、満足。
勘定をして、出る。
帰りは、昭和通りまで出て、また、タクシー。
洋食や、根岸、香味屋。
やっぱり、東京を代表する洋食やであることは
間違いなかろう。
うまかった、うまかった。
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