断腸亭料理日記2009
4月5日(日)第二食
日曜日。
第一食は、昨夜作った、カレー。
たいした量もなかったので、食べ切る。
昼過ぎ、陽気もよいので、出る。
床屋、それから、アメ横の魚やのコース、で、ある。
稽古、ということもなく、落語をぶつぶつ、つぶやきながら。
今日は、久しぶりに、天災、を、やってみる。
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大家さんねぇ。
ちょいと頼みがあってきたんだけどさ。
離縁状を二本ばかりかいてもらいてぇだんけどね。
離縁状をさ。
なんだ、くる早々に、離縁状、離縁状って。
そんなもなぁ、なあ、生涯(しょうげぇ)かかったって、一本だって
書きてえもんじゃねえや。
で、なんだ、その二本てぇのは。
一本は手前(てめぇ)の内儀(かみ)さんにやるんでわかるが、
もう一本はいってぇ誰にやるんだ!
決まってらぁな、婆(ばばあ)だよ。
なんだ婆とは!
婆、知らねえかい?家にいる婆。
古くからいるよ〜。
ことによると家の主(ぬし)じゃねえかと思うけどね。
しわくちゃになっちゃって、バクバクになちゃってさ。
吹けば飛びそうな婆。
提灯(ちょうちん)婆に、唐傘(からかさ)婆。
なんだ、婆、婆と口汚く。
ありゃお前のおっかさんだろ。
よせよ〜。
あんなのおっかさんだなんて、人聞きのわりいこと
いわねえでもらいてぇな。
違うのか?
違うよ!冗談じゃねえ。
そりゃ、知らなかったな。
じゃ、内儀さんのおっかさんかなんかか?
違うよ。
親類の方(かた)か?
さぁねぇ〜
親類の方が居座ってるってほどのもんじゃないね。
なんだかわかんねぇ。
わかんねえ?
わかんねえ。
わかんねえのを、置いとくのか?
そうなんだよ。
わかんねえのを置いとくわけにいかねえ、と思ったからさ、
こねぇだ仕事を休んで、二階へ上がってじっくり考げぇえた。
・・・。
と、出どこがわかったね。
なんだ、出どことは。
つまりさ。
七年前(めぇ)に死んだあっしの親爺がいたろ?
あれのまあ、嬶(かかあ)なんだよ。
そりゃ、お前のおっかさんだよ。
違うよ。
親父の嬶だよ。あいつが連れてきたんだよ。
俺(おり)ゃ知らねえ。
違うのか?
ちぃ〜がうってねぇ〜〜、
まぁ〜〜、俺が生まれた頃には、
もういたね。
そりゃ、お前のおっかさんってんだよ。
あーいうの、おっかさん、ってのかい?
珍しいね。
珍しかぁねぇ!。
・・・
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久しぶりに喋ってみたが、意外に覚えているもの、で、ある。
稽古、と気を張らずに、喋るのが、またよい。
特にこの噺は、自分で喋りながら、楽しくなってくる。
ぶつぶついいながら、昭和通りのQBまでくるが、随分と待ちの列。
黒門町の方にもあるので、そっちへいってみるか。
続けて、ぶつぶついいながら、JRのガードをくぐり、
中央通りも渡って、黒門小学校の前を通ったところで、
「どーも」と、前から歩いてきた人に声を掛けられた。
最近随分目がわるくなってきたのもあるが、
落語を喋りながら歩いていると、まわりは見ているようで、
見えていない。
その上、喋っていると、表情が噺の中の人物になっている、
というのもあるのであろう、にこにこ笑ったりしている。
以前、やはり、千束町あたりを喋りながら歩いていたら、
ところのお婆さんに、暑いですね〜、なんて話しかけられたこともある。
その、黒門小学校の前。
話しかけられた人が、そばに寄ってきても、誰だかわからない。
最近、人の顔も、覚えなくなってきてもいる。
これも困ったもの。
いい加減に調子を合わせようか、と、逡巡しているのが
相手にわかったのであろう、名乗ってくれた。
「鶴八です」と。
あ〜〜〜〜。
神保町の鮨や、鶴八の親方。
隣に、女将さんも一緒。
洒落たハンチングなぞをかぶられ、
まったく気が付かなかった。
しかし、こんなところで会うのは、まったくの奇遇で、ある。
どちらへ?、、なんという会話。
私は、陽気もいいし、ぶらぶらと、床屋へ、と。
ある場所に必ずいる人と、別の場所で会うと、
場所と共に覚えているので、わからないものである。
それにしても、こんなところで会うとは、
驚いた。
こちらのQBへきてみると、こんな裏通りなのに、
やっぱり、一杯。
おまけに、切っている人は一人。
こりゃだめだ。
この界隈、QBはもう一軒ある。
中央通りと春日通りの広小路の交差点そば、で、ある。
そちらへまわると、、
なんと、一番混んでいそうなここが、待ちはなし。
すぐやれて、すぐに出る。
さて。
ここから、いつものアメ横の魚やへ。
きてみると、鰤(ぶり)の大きな切り身。
五枚で600円。
これは安いであろう。
買う。
上野の山の花見客も、あるのだろう、
ごった返すアメ横を抜けて、昭和通りも渡り、まっすぐ帰宅。
アメ横から、元浅草へ帰る道すがら
やはり改めて思うのだが、東京というのは、
桜の花の多いところ、で、ある、と。
この帰り道でも、白鴎高校など、学校はもちろん、
西町公園など公園にも桜はたくさん植わっている。
それらが皆、満開。
きれいなもの、で、ある。
さて。
鰤。
五切れあるが、まずは煮てみよう。
毎度出てくる、(元)穴子の煮汁の煮詰めたもの。
この前は、焼いた鶏にからめたりして使っている。
この煮汁で煮てみよう。
鰤は脂があるので、この煮汁も、もう一回煮詰めて、
よい味になるかもしれない。
しかし、で、ある。一方で、こんなこともある。
この煮汁の煮詰めたもの、鮨やでいう、ツメ。
甘いたれ、であるが、今読んでる、「鮨水谷の悦楽」(文春文庫)
によれば、銀座水谷の親方は、穴子の煮汁は、なん度も使うようなことは
しない、と、いう。煮返し、煮返し、注ぎ足し、注ぎ足し、なんて、
鮮度が落ちる、というのが理由。まあ、職人のこだわり?
いや、実際に、味が違っていくのか。まあ、まったく変化はしない
とはいえないのだろう。しかし、素人、であれば、それでも
この煮詰めは、十分に使い道がある。
ともあれ。
まずは、鰤の霜降り。
薬缶で湯を沸かし、洗った鰤の切り身、三枚に裏表、掛け、
冷水で、もう一度洗う。
平たい大きな鍋に、少し水を張り、切り身三枚を入れる。
瓶にストックしてある煮詰めを軽くレンジ加熱、
ゆるめて、鍋に入れ、点火。
煮立ってきたら、味をみる。
もともと、この煮詰めは、しょうゆが強かったので、
砂糖とみりんを追加。
アルミホイルで落としぶたをし、弱火。
煮る。
七分。
OK。
よいだろう。
ビールを抜いて、食う。
なかなか、よい。
脂もある。
よい陽気のなか、歩いたので、ビールがうまい。
三切れ煮たうち、二切れ食べてしまった。
さて。
かの残った煮汁。
もう一度、砂糖を加え、煮詰めておく。
これで、また、甘いたれに戻ったわけである。
残った二切れの鰤の切り身は、
焼いて、このたれで、つけ焼き。
照焼きにして、ストック用に。
落語と、鰤、、鶴八の親方夫妻、、、。落ちもなく、
なぁ〜んとなく、まとまらない、一本になってしまった。
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