断腸亭料理日記2008

さより押し寿司

10月25日(土)深夜

さて、さより。

10本分、刺身で食ったが、
残り、まだ、20本。

どうしようか。
まあ、いつものように、押し寿司、で、あろう。

深夜になるが、先に、米を洗い、浸水をしておく。
(今あるのは、無洗米なので、洗うだけ。)

3時間ほど、浸水。

完全に水が入ったのを見て、炊き始める。
炊飯器の堅めモード。

炊いている間に、さよりをもう一度、さばく。
やはり、10本。
三枚におろし、皮を引く。

やはり、少し、酢で〆るか。

さよりは、鯵や鯖などの光ものほど
生ぐさくもないので、軽く、酢をくぐらせる程度でよいだろう。

パッドに酢を入れ、両面酢をまぶし、
あげて、ざるにのせ、ペーパータオルにはさんでおく。


さて、あとは、飯が炊けるのを待つ。

のであるが、先月、秋刀魚の押し寿司を作るのに
酢飯を失敗している。

べちょべちょ。

まったく、酢飯作りは、私には鬼門、で、ある。
これはどうしてであろうか。

どうした訳か、うちの内儀(かみ)さんは、できる。
むろんさほど、うまい、わけではないが、少なくとも
私よりは、酢飯らしいものができる。

私と、内儀さんと、どちらが料理がうまいのか、
というのは、むずかしい問題、で、ある。

私の料理と、内儀さんの料理とは、根本的に
動機が違っているから、単純に比較できるものではない。

食べる(腹を一杯にする)ための料理か、
自分が食いたい、うまいものを食う、ための
料理なのか、という違い、で、ある。

とりあえず、腹を満たすためであれば、
なんでもよい、という考えもある。

しかし、私の場合は、どうせ同じ一食を食べるのであれば、
少しでもうまいものを食いたい、と、思う。

例えば、同じ、味噌汁一杯を作るにも、
化学調味料(○○だし)ではなく、(昨日書いたように)
びっくりするほど、手間がかかるわけではないので、
鰹節なりから、取るべきであろう、と考える。
化学調味料を使えば、皆、独特の同じ味になってしまう。
どうも、これには納得できないのである。

私の場合は身体にいい、とか、そういうことではなく、
どちらがうまいのか、ということである。
また、むろんグルメ、ということでもない。

短い一生、なん回飯が食えるのか、それは自ずと
限りがある。であれば、一食一食、おろそかにせず、
一所懸命に作り、食べたい、ということなのである。
(池波先生などは、確か、命がけで食べる、
とまで言っていたような、気もする。)

もう一つ、脱線ついでに、
ちゃんと出汁を取る、で、思い出したことがある。

食は先祖から受け継いだ、文化である、ということ。
考えてみれば、鰹節も出汁を取る前に削る、というものであった。
子供の頃は、私の家でもそうしていたし、自分もよく削らされていた。

(そうである。どうでもいいが、鰹節は、削る、ではなく、
カク、という動詞を使っていた。カツブシをカク、であった。)

今は、かいておらず、削り節を使っているが、
今の拙亭にも、例の木の箱に鉋(かんな)をひっくり返して
入れたような、鰹節削り器があり、実際に使ってもいた。
今も、鰹節そのものも冷蔵庫にある。

先祖からの生活文化は、できることなら、
受け継いでいきたい、と思うのである。

もっというと、これは食に限らず、生活全般なんでもそうである。
今の時代、なんでもかんでも、というわけにはいかないが、
例えば、親ができたことは、基本的には、できた方がよい、と、
思うのである。

例えば、火を熾せる。
親の世代では、さすがに火打石、ということはなく
マッチであったろうが、それでも、薪に、あるいは炭に火を熾して、
例えば飯を炊く。親の世代は、これは皆できたであろう。
今では、災害時、ということを考えても、我々も、基本的な
技能として、このくらいはできた方がよいだろう。

包丁を持てる、というのも、そうかも知れない。

また、着物が着れて、たためる。
こういうものもある。

私の場合は、落語をするので、落語の稽古の一環で
着れてたためるようにしたのだが、今、私の同世代以下の男性で、
自分で着物が着れて、たためる、のは、どのくらいの割合であろうか。
着物は我々の、民族衣装である。
このくらいはできて当たり前ではなかろうか、と、思うのである。
私自身も今、毎日、着物を着ているわけではない。
また、必要がなければ、無理にする必要もなかろう。
しかし、できる、という状態では、ありたいと思うのである。

酢飯のことから、そうとうに、筆が滑ってしまった。

なんの話であったか。

そうそう。内儀さんは、酢飯を作るのが、私よりも、
うまい、という話であった。
なぜできるのか、というと、子どもの頃から
やらされた、ということらしい。

今日は、内儀さんにやらせて、見てよう。

よく、こだわっている人は、木製の飯台、
丸い浅い桶、でなければ、だめ。
これは水分を吸うから、という。

しかし、そんなものがなくとも、内儀さんは
プラスチックのボールでやる。

味付けも、すべて、任せた。
酢に砂糖を入れ、寿司酢を作る。
これをまずは、ボールの炊き上がった飯にかけ、
しゃ文字で切りながら、全体に、いきわたらせる。
これは、私もしている。

ここから、団扇であおぎながら、混ぜる。
ここで内儀さんは、あまり、混ぜ過ぎてはいけない、という。
混ぜ過ぎると、粘りが出てきてしまう、から。

確かに、見ていると、このあたりで、酢飯らしくなってくる。

私の場合は、扇風機にあてたり、してもいるが、、、。

混ぜ過ぎないで、扇風機にもあてず、ある程度で
放っておく。
こういうことであろうか。

なんとなく、割り切れない思いもあるが、
酢飯はできた。

後は、押し寿司の型を水にひたし、
湿らせ、一番下に、酢で軽く〆た、さよりを並べて
酢飯を詰める、さよりもだいぶあるので、
もう一段、中にも入れ、さらに、酢飯を詰める。

上から重石をし、1時間ほど。

型から出す。


切ってみる。


時間を置くと、さよりの身は、軽く酢をしただけだが、
真っ白になっている。

鯖や鯵、鰯などと比べると、むろん生ぐさくもなく、
さっぱりした、押し寿司が、できた。

なんというのであろうか、やっぱり、白身魚の
ような、上品なうまみがある。

さよりという魚、あとは、普通に塩焼きでもよい。
うまい魚、で、ある。




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